研究課題/領域番号 |
17K00289
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研究機関 | 松江工業高等専門学校 |
研究代表者 |
田邊 喜一 松江工業高等専門学校, 情報工学科, 教授 (20413825)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 周辺情報 / 視覚的注意 / 変化の見落とし / 瞬目 / インタフェース |
研究実績の概要 |
本年度は,瞬目開始時点を検出する方式を考案し,そのタイミングで画面情報を切り替える検証実験用の情報提示制御システムを構築した. (1)瞬目開始時点のリアルタイム検出方式の実装:頭部の動きによる誤検出を避けるため,メガネ装着型の眼領域映像取得ユニットを作製した.眼領域の撮影には超小型の高速度ビデオカメラ(実測値85.5fps)を用いた.露光時間の不足を補うため,赤外LEDによる眼領域照明ユニットを付加し,良好な映像が取得できることを確認した.また,瞬目開始時点を検出するために,閉瞼に伴い黒目領域の面積が減少し始める時点を検出するアルゴリズムを実装した.本方式では,真の瞬目開始時点から5フレーム(58.5ms)遅れた時点を瞬目開始時点として検出することができる. (2)提示タイミングの許容度の検討:瞬目の前半の閉瞼過程では,上眼瞼が下降し始めてから完全に閉じるまでに約100msを要する.閉瞼完了時点から上眼瞼が上昇し完全に開眼するまでに約200ms要するので,瞬目開始時点の検出と同時に提示情報を切り替えるのに十分な時間の余裕がある.ただし,徐々に眼が開いて行くため,後半の開瞼過程の途中から視覚入力が可能になると予想される.そこで,許容される提示タイミングの遅延時間を特定するため,瞬目開始時点を起点とし,遅延時間を0, 20, 50, 100, 150msと段階的に延長して瞬間提示(20ms)した光点を検知する実験を計画した.その結果,遅延時間が20msまでは光点の提示に気付く観察者は見られなかった.50msの遅延時間では半数の観察者が光点の提示に気付き始めた.以上から,提示タイミング遅延の許容度は20~50msと見込まれる. (3)情報提示制御ソフトウェアの実装:画像認識ライブラリのOpenCV3.0をベースとして,次年度以降に実施する検証実験用の情報提示制御システムを構築した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
メガネ装着型の目領域映像取得ユニットは外注により作製したが,納期通りに納入されたため,研究計画の遅れは生じなかった.また,予備のビデオカメラを用いて,瞬目検出アルゴリズムの検討を並行して進めたため,より効率的に研究が捗った.ただ,ユニットに装着されたLEDの強度がやや弱いことが判明したため,より安定した検出を実現するためにLEDの出力を増強する方策を講じた. 瞬目検出アルゴリズムについては,目領域内のエッジ強度と黒目領域の面積に基づく二種類の方法について検討したが,後者の方法がよりロバストに検出できることが研究の早期の時点で判明したため,検出アルゴリズムの実装が計画通りに完了した. また,ビデオカメラからPCへの映像転送遅延時間の影響により,リアルタイム検出に支障が生じる可能性を懸念していたが,予備的実験により,実用上問題の無いことが判明したため,代替のセンシング手法を検討する必要はなかった. 情報提示制御システムの実装には画像認識ライブラリのOpenCV3.0を用いたため,豊富な関数群を有効に利用することができ,実装は極めてスムーズに進んだ.
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画通りに進める.次年度は,主作業を課さない条件下で,周辺情報の種類や提示位置による検出特性の差異を把握する.最終年度は,主作業を課すことにより,実際的な応用場面を想定した周辺情報の検出特性を総合的に把握・評価する.次年度は,以下の研究実施計画により,変化の見落とし現象の周辺情報提示法への適用可能性について検証する. (1)変化の見落とし現象の確認:課題として,実験参加者に画面の中央部に提示された+記号を注視してもらい,不随意性の瞬目が生じたタイミングで周辺8箇所に配置した刺激(例えばアルファベット1文字)のうち,ランダムに選んだ位置の刺激を他の刺激に置き換え,その位置を回答してもらう課題を計画する.実験パラメータは提示タイミング(非瞬目時,不随意性瞬目時),刺激の種類,周辺刺激配置等を想定している. (2)注意誘導の効果の把握:(1)と同様の刺激配置を用いるが,画面の中央部には+記号の代わりに,変化する位置の手がかりを{→,↓,→,↑}の記号を用いて事前に示す.手がかりを示すことにより,実験参加者は刺激変化領域に十分に注意を配分できるため,正答率は相当上昇すると予想される.これにより,周辺情報の提示領域に注意を向けていれば,周辺情報の変化が検知できることが検証される. 最終年度は,「非検出型」,「偶然検出型」,「要求検出型」,「強制検出型」の4種類の周辺情報提示制御方式を提供し,それぞれの方式の有効性を検証することにより,提案方式の総合的な評価を行う.「主作業の認知負荷の高低による変化検出特性の把握」,「随意性瞬目による検出実験」,「総合的評価」等について検討する.
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次年度使用額が生じた理由 |
「物品費」については概ね計画通りに執行した.「旅費」については,予定していた学会への出席を取りやめたことと,出張パック等を活用することにより,約10万円の次年度使用額が生じた.また,「人件費・謝金」については,当初予定していた実験参加者数が確保できず,約3万円の次年度使用額が生じた.また,「その他」では予定していた学会への参加の見送りにより,学会参加費として計上していた約2万円分が次年度使用額として生じた. 次年度は,研究成果をより積極的に公表するため,学会参加回数を増やし,更に,学術論文の投稿を進めることにより,次年度使用額を有効に活用する所存である.
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