研究課題/領域番号 |
17K00289
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研究機関 | 松江工業高等専門学校 |
研究代表者 |
田邊 喜一 松江工業高等専門学校, 情報工学科, 教授 (20413825)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 周辺情報 / 視覚的注意 / 変化の見落とし / 瞬目 / インタフェース |
研究実績の概要 |
周辺情報通知への応用を実現するために着目した“変化の見落とし現象”の基礎特性を把握した.主作業を課さない単純な課題に基づき,周辺刺激の配置や注意配分量の違いによる検出特性の差異を明らかにした. (1)変化の見落とし現象(CB現象)の確認:周辺刺激としてアルファベット一文字を画面の中央から偏心度10°の円周上の8箇所の位置に配置した.画面の中央部に表示された十字記号を実験参加者に注視させた状態で,開眼時に8箇所中の一箇所を他の文字に変化させると(CB現象が生じない条件),周辺刺激変化位置の検出率はほぼ100%であった.一方,随意性瞬目時に変化させると(CB現象が生じる条件),検出率は50%未満と大きく低下した.この結果は,実験参加者が8箇所の周辺刺激に対して,注意を均一に配分することが難しい状況を反映している.すなわち,CB現象を導入することにより,ユーザが周辺刺激の変化に気づくことができない状況を産出できることを確認した. (2)注意誘導の効果の把握:次に,画面中央部の十字記号の代わりに,変化する空間領域のてがかりを与える4種類の矢印記号{→,←,↑,↓}を表示した.これにより,実験参加者は変化する空間範囲を8箇所中の3箇所に絞り込むことができる.このときの検出率は80%程度とかなり高かった.これは,実験参加者が刺激変化候補領域に十分に注意を配分できていた状況を示す.すなわち,周辺情報が提示される空間領域に注意が向けられているときにのみ,ユーザがその変化に気づくとの,提案手法の基本的なアイデアの実現可能性が確認できた. (3)周辺刺激の配置の効果:更に,周辺刺激を5°,10°,15°の3種類の偏心度で配置したときの検出特性について検討した.その結果,偏心度が大きくなるとCB現象がより強固に誘発される傾向を確認した.また,注意誘導の効果は偏心度15°においても,なお有効であった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
“変化の見落とし現象”の基礎特性を計測するための実験を計画通りに実施することができた.分析の結果,当初予想していた特性とほぼ同等の実験データが得られたことから,実験計画を見直しすることなく,提案手法の実現可能性について,研究の早期の段階で見通しが得られた.得られた知見は,査読付きの論文(研究速報)としてまとめることができた. 周辺刺激を検出する実験では,安定したデータを取得するため,自発性瞬目(意識せずに不定期に生じる通常の瞬目)ではなく,随意性の瞬目(意識的に行う瞬目)を利用した.実験終了時点で,実験参加者から,試行中に多数回の瞬きを自ら行うのが苦痛であり,目が疲れるとの報告を受けたため,瞬目を使用しないフリッカー法の利用を検討した. フリッカー法は刺激を変化させる直前に100ms程度の空白画像を挟み込む提示手法である.この方法は瞬目法よりも簡便ではあるが,周辺情報を更新する際に画面のちらつきが生じるため,周辺情報通知法を実用化するための手法としては直接的には利用できない.しかし,現段階は“変化の見落とし現象”に関する基礎的データを集積することが目的であるため,両手法により同等の知見の獲得が期待できるとの見通しが得られれば,フリッカー法に基づく検出実験が実験参加者の負担軽減の点からも妥当であると判断した. そこで,瞬目法とフリッカー法による予備実験を実施した結果,ほぼ同等の特性が得られることを確認できたことから,年度途中から,フリッカー法に切り替えて一連の検出実験を計画・実施した.この実験手法の切り替えにより,“変化の見落とし現象”に関する基礎データの収集がより円滑に進展したと評価できる.
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今後の研究の推進方策 |
本研究の最終年度は,主作業と周辺作業を同時に遂行する課題を用いて,実際的な応用場面をシミュレートした周辺刺激の検出特性を総合的に把握・評価する. (1)主作業の認知負荷の高低による変化検出特性の把握:主作業として,画面の中央にアルファベット一文字を一定の時間間隔で切り替えて提示し,ターゲット文字が提示されたとき,指定されたキーを即座に押させるタスクを導入する.このとき,提示するターゲットの出現頻度を数段階に操作することにより,認知負荷の大きさを調整する.同時に,前年度で用いた周辺刺激変化検出課題を課し,認知負荷量が周辺刺激の検出特性に与える影響を明らかにする.周辺刺激の種類,提示個数,配置,変化位置等を実験パラメータとして分析する. (2)随意性瞬目による検出実験:前年度では検討していない,指定した刺激提示位置に注意を向けた状態で,意図して随意性瞬目を発する「要求検出型」について,その検出特性を検討する.主作業が含まれない場合と含まれる場合の2種類の条件下で実施する.予想される結果は以下の通りである.主作業が含まれない場合は,開眼時に情報を提供する「強制検出型」に近い正答率となる.主作業を伴う場合は周辺領域(刺激提示位置)に対する注意の配分量が十分でないことが推測されるため,正答率はやや低下する. (3)総合的評価:「非検出型」,「偶然検出型」,「要求検出型」,「強制検出型」の4種類の周辺情報提示制御方式の有効性を検証するための実験を計画する.主作業は,画面中央に提示されたアルファベットの検出課題(ターゲット検出)とし,周辺刺激として,“待機中”,“メッセージ着信”などの実際の応用場面を模擬した意味のある単語を用いる.検証実験を通じて提案方式の総合的な評価を行う.
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次年度使用額が生じた理由 |
(1)理由:「物品費」については概ね計画通りに執行した.「旅費」については,予定していた学会への出席を取りやめたこと,出張パック等を活用したことなどの理由により,約17万円の次年度使用額が生じた.また,「人件費*謝金」については,本年度はボランティアによる実験を主として実施したため,約7万円の次年度使用額が生じた.また,「その他」では予定していた学会への参加を見送ったため,約15万円分が次年度使用額として生じた. (2)執行計画:概ね,以下の通りに執行する予定である.「物品費」60万円:総合実験用に必要となる少額の機材(眼球運動計測ユニット等)の購入に充当する予定である.「旅費」30万円:4回程度の国内出張(発表と調査)を予定している.「人件費*謝金」10万円:実験用謝金として有効に活用する.「その他」15万円:論文掲載料(採録済み)と現在投稿準備中の論文の掲載料(採録されれば)に充当する予定である.
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