研究課題/領域番号 |
17K00302
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
松村 嘉之 信州大学, 学術研究院繊維学系, 准教授 (50362108)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 分散計算環境 / マルチエージェントシミュレーション / 群挙動の創発 / 人工知能 / 人工社会シミュレーション / モデル産業 / 企業間取引ネットワーク分析 / ハブ企業 |
研究実績の概要 |
複数拠点に点在する余剰計算資源を有効活用し、安価に計算資源をスケールアウトできる分散計算環境を活用した。スワームロボティックシステムを可塑的群知能システムとして構築するための新規設計論を構築することを目標にして、難易度レベルの異なるいくつかのマルチエージェントシミュレーション問題を取り扱い、群挙動の創発を試みている。特に、人工知能を人工社会シミュレーション実装の際のモデリングで活用することを指向し、人工社会でのモデル産業として繊維業界に着目し、繊維関連業界データについて複雑ネットワーク分析を重点的に行っている。このネットワーク分析では、2005 年度から 2010 年度における総合アパレル部門 200 社分の取引関係データに関して、ネットワーク諸指標を用いることで定量的評価を試みた。繊維・アパレル産業の企業間取引ネットワーク全体に関して分析するため、マクロ的ネットワーク指標として総枝数、平均次数、ネットワーク直径、ネットワーク密度を用いた。その結果、企業間取引ネットワークの広がりを示す指標であるネットワーク直径と為替変動について、負の傾きを示す回帰式が得られた。この結果によって、円高傾向時においては取引数が増加し、円安傾向時においては取引数が減少するというネットワーク構造の変動を定量化可能なことを確認した。さらに、企業間取引ネットワークのデータを6年分取扱い、為替変動(USD/JPY)との回帰分析を試みた。その結果、ハブ企業である総合商社について、為替変動に起因する企業間取引ネットワークの変化が生じていた。為替とハブ企業である総合商社の次数中心性については、正の傾きを示す回帰式が得られた。この結果によって、円安傾向時に取引先数を増大させ、円高傾向時に取引先数を減少させるという、国際企業かつハブ企業としての典型的な総合商社の企業間取引ネットワーク変化の性質を定量的に示すことができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
前述で対照としている繊維・アパレル産業に関連した研究事例としては、一般的な統計処理や集計を駆使した産業分析が試みられており、世界経済との関連からマクロ経済学的、または地域経済と産業組織の関連からミクロ経済学的な個別事例のケース研究として見なされる。しかし、これらの研究手法の多くは、地域別や産業分野別の様々なパラメータ集計、並びに統計処理である。したがって、企業間取引としての振る舞い、産業の変遷としての振る舞い、さらに世界経済としての振る舞いを結びつけ最適化を試みるという創発的シンセシスの方法論や観点からは、マルチエージェントシミュレーション問題として取り扱う基礎的研究の蓄積が不十分な現状にある。そこで、繊維・アパレル産業の企業間取引ネットワークに着目し、企業間取引ネットワークを分析することで産業の状態や性質を数値化することが可能になり、複雑な関係性の最適化の一助を担うことが可能になると考えた。29年度の先行研究では,繊維・アパレル産業の企業間取引ネットワークは、ネットワーク内において取引先数が最も集中した中心企業とこれに次ぐ中心的企業が自己相似的に構成されていることが確認されている。しかし先行研究は、2015/16 年度におけるネットワーク構造に関する時間的変化を含まない静的な分析であった。したがって、人工社会シミュレーションとして企業間取引とマクロ経済の関係を定量化するという観点に基づくネットワーク構造の変動を探っていくためには、経済的な指標や時間的変化をも含む動的なデータ分析が必要である。この点において、今年度の成果は、ネットワーク構造の変動を定量化した結果までを、学術論文として投稿し、採択され、印刷中となっている。
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今後の研究の推進方策 |
企業間取引の情報産業化に関連した研究事例として、サプライチェーンを模した数理モデルを構築し、数値計算によって取引における物資や金額などの数量の挙動を論じた例が挙げられる。また、ネットワークを有する人間集団の環境変動への適応における、ネットワークの中心者であるハブの役割に関して分析した研究事例もある。この先行研究によって、ハブがネットワークに組み込まれている場合の方が、環境変動に対して、より短期間で適応できる可能性が議論されている。実際に、集団にもたらすハブの効果と集団としての適応的振る舞いに関しては、創発システムに関わる先行研究によっても関連性が指摘されている。代表的な研究事例としては、ネットワークの幾何学的性質に着目した合意形成過程に関する問題設定が挙げられる。しかしながら、情報通信技術(Information and Communication Technologies : ICT)の導入に起因する企業間取引ネットワークの変遷についての実証的な分析事例は数多くない。まして、近年の情報通信技術の発達は目覚ましく、コトのインターネット化(IoT : Internet of things)や機械学習に関連したテクノロジーが身近なものとなりつつある。これにもかかわらず、企業間取引という社会システム(スワーム)の観点において、情報流通技術が導入された結果を定量的に評価する方法論に関しては、システム科学の学問分野として研究の途上にある。本課題の30年度の研究によって企業間取引の状態や変遷を客観的に分析するためのツールやデータは十分に活用できる現状にある。そこで次年度31年は、実データから得られた企業間取引ネットワークの変遷過程について、定性的側面としての情報産業化を加味したマルチエージェントシミュレーションを実施する。
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