研究課題/領域番号 |
17K00302
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
松村 嘉之 信州大学, 学術研究院繊維学系, 准教授 (50362108)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 人工社会 / エージェントベースモデリング / ネットワーク構造形成過程の再現 |
研究実績の概要 |
複数拠点に点在する計算資源を安価に活用した。スワームロボティックシステムを可塑的群知能システムとして構築するための新規設計論を構築することを目標にして、難易度レベルの異なるいくつかのマルチエージェント問題を取り扱い、群挙動の創発を試みた。特に、人工知能を人工社会シミュレーション実装の際のモデリングで活用することを指向し、人工社会でのモデル産業として繊維業界に着目し、繊維関連業界データを取り扱った。 産業を企業間取引ネットワークと見なすことで、企業のネットワークで構成された産業という中間的な領域を見出し、企業間取引ネットワークの形成過程の理解を深めるために、企業の振る舞いを模したエージェントベースモデルを構築し、ネットワーク構造の形成過程に関するシミュレーション実験を試みた。空間的な影響とエージェント間の取引に基づいてネットワークが形成されるという仮説検証モデル実験を試みている。 その結果、空間の影響の増大に応じて、ネットワーク直径は正に反応し、集団中最大の次数中心性は負に反応した。空間の影響を国内産業の文脈で置き換えるために、JPY/USD為替変動との実際のネットワーク指標の関係を、相関分析によって再分析している。この結果、モデル実験から得られたネットワークの分布特性を表した相補累積分布関数において、実際のデータから得られた統計的性質に近い統計値を示すスケール・フリー性の分布特性が特定の実験条件において示されている。以上により、仮説検証モデル実験によっても、繊維・アパレル産業の企業間取引ネットワークの形成過程を再現可能なことを示している。 トータルとして、産業を企業のネットワークと見なした複合的な観点に基づくネットワーク分析や、企業の振る舞いを模したネットワーク生成のシミュレーション実験が、多様な産業の連携を実現する社会設計の手法として有用であることも示せた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初、計画していた計算機環境の整備やアルゴリズムの改善だけでなく、集団にもたらすハブの効果と集団としての適応的振る舞いに関してマルチエージェントシミュレーションを実施することができた。 ネットワークの中心的なハブとその周辺のつながりは、創発システムに関わる先行研究によっても関連性が指摘され、ネットワークの幾何学的性質に着目した合意形成過程に関する問題設定でも取り扱われている。これに関するSNSでの関係性も研究が進んだ。これまでのモデル産業での情報通信技術(Information and Communication Technologies : ICT)の導入に起因する企業間取引ネットワークの変遷についての実証的な分析事例は数多くない。まして、近年の情報通信技術の発達は目覚ましく、コトのインターネット化(IoT : Internet of things)や機械学習に関連したテクノロジーが身近なものとなりつつある。これにもかかわらず、企業間取引という社会システム(スワーム)の観点において、情報流通技術が導入された結果を定量的に評価する方法論に関しては、システム科学の学問分野として研究の途上にある。 本課題研究の進展によって、企業間取引やSNSでの関係の状態や変遷を客観的に分析するためのツールやデータを活用し、実際の業界データから得られた企業間取引ネットワークの変遷過程について、定性的側面としての情報産業化を加味したマルチエージェントシミュレーションを実施することができ、当初の計画以上の進展があった。 特に、産業を企業のネットワークと見なした複合的な観点に基づく複雑ネットワーク分析の結果についても論文にて公表でき、企業の振る舞いを模したネットワーク生成のシミュレーション実験が、多様な産業の連携を実現する社会設計の手法として有用であることを示した点でも学術的な意義があった。
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今後の研究の推進方策 |
コロナウイルス感染症のパンデミック化の影響を受け、成果公表の場が一部延期になり、発表を見送っている成果がある。また、審査過程での遅延も見受けられるので、研究期間を1年延長した。感染症対策の動向に合わせ、令和2年度の延長期間での成果発表を適宜行うことを予定している。
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