本研究では,形式意味論的アプローチに基づき,自然言語文の同時的理解を実現する意味解析システムを開発する.令和元年度は,同時的意味解析システムを実現するために必要となる構文解析の開発を実施した。具体的な研究成果は以下の通りである. (1)意味解析においては非局所的依存関係と呼ばれる統語的関係が重要な役割を果たすが,非局所的依存関係を同定する構文解析を開発した.非局所的依存関係を含む構文構造はグラフ構造となるが,本手法では,これを木構造として近似的に表現する.これにより,木構造ベースの構文解析においても非局所的依存関係同定が可能となった.本研究成果を論文としてまとめ,国際会議ACL2019において発表した. (2)空所化と呼ばれる言語現象を処理するための構文解析を開発した.空所化とは,等位接続された構成素(句や節など)に共通する要素が,一つの構成素を除きその他の構成素から省略される現象である.空所化を含む文を意味解析するためには,省略された要素を補う処理が必要となる.本研究では,省略された要素を復元する構文解析を開発した.開発した構文解析では,空所化の結果として残された構成素と空所化がされていない構成素とを対応付け,省略された要素を復元する.この問題は,文法・意味的役割の一致に基づくシーケンスアラインメントの問題として定式化される.開発した構文解析は,従来の手法と比べて再現率の高い空所化構文の解析を実現した.
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