研究課題/領域番号 |
17K00344
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研究機関 | 九州工業大学 |
研究代表者 |
立野 勝巳 九州工業大学, 大学院生命体工学研究科, 准教授 (00346868)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | スパイキングニューラルネットワーク / 内側側頭葉 / 海馬 |
研究実績の概要 |
本プロジェクトでは、内側側頭葉のスパイキングニューラルネットワークモデルを提案し、においによる恐怖条件付け学習を行う。内側側頭葉モデルは、嗅内皮質と海馬のニューラルネットワークからなる。ロボットの頭方位と移動速度の情報を入力とし、それらの情報を経路積分することで、仮想ラットの位置を内部表現する。また、時間細胞を用いることで、移動経路に応じた経路依存場所細胞も構成可能である。内部表現された位置情報を元に、移動方向を選択するための行動選択ネットワークを付加している。ニューラルネットワークを構成するニューロンは、いずれも活動電位を起こすスパイキングニューロンによって構成されている。 提案ニューラルネットワークを移動ロボットと無線通信で結合して、移動ロボットからのセンサ情報をもとにニューラルネットワークで行動選択処理を行うシステムを構築している。移動ロボットを滑らかに動作させるためには、大規模なニューラルネットワークの計算を実時間で終えなければならない。そこで、Graphics Processing Unit(GPU)を用いたニューラルネットワーク並列計算用ライブラリを整備している。現時点で、スパース結合したニューラルネットワークであれば、10万ニューロンまでの実時間計算が可能である。また、cudaプログラミングを意識せずともGPUを用いた演算ができるようにした。これにより効率よく、スパイキングニューラルネットワークの並列計算ができるようになった。 においの識別を行うため、エタノールとリモネンを用いて、複数のセンサを組み合わせて濃度応答特性を調べた。センサ情報によりニューラルネットワークの学習を行ったが、結果として、適切にガスセンサを選択することで、学習なしでも、ガスの分別ができるとの結果を得た。混合ガスにおいては、さらなる追加調査が必要である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
現在までに嗅内皮質と海馬からなる内側側頭葉モデルに、行動選択ネットワークを結合し、空間探索シミュレーションができる状況まで進んでいる。内側側頭葉ネットワークと行動選択ネットワークは、積分発火型のスパイキングニューロンにより構成している。内側側頭葉ネットワークには頭方位細胞、速度細胞、格子細胞、場所細胞、時間細胞を含む構成である。移動ロボットの頭方位と速度を提案ニューラルネットワークに入力し、ネットワーク内に格子細胞と場所細胞を形成できることを確認している。また、時間細胞を使い、経路依存場所細胞も併せて構成できる状況である。提案ニューラルネットワークのシミュレーションでは、ドーパミン依存シナプス可塑性を取り入れ、報酬をトリガとして、海馬の場所情報をもとにした行動選択ができるようになっている。 ニューラルネットワークと移動ロボットを結合するために、ニューラルネットワークシミュレーションを実時間で終えるプログラムも用意できている状況である。特に、令和2年度は、GPUを用いた並列計算による計算の高速化をさらに進めた。GPUに対応したプログラムを作成するためには、cudaプログラミングが必要であるが、cudaプログラミング部分をカプセル化し、GPUを意識せずにスパイキングニューラルネットワークプログラムが作成できるようにした。このことによりネットワークの作成効率が改善した。また、10万ニューロン程度のスパイキングニューラルネットワークを実時間で計算できるようになった。これはWistarラットのCA3領域の半分程度の規模に相当する。 ニューラルネットワークの出力をロボットに伝達する仕組みは作成済みであるが、実際に行動選択の結果を移動ロボットにフィードバックする調整が未完成である。そのため、ニューラルネットワークと移動ロボットを用いた課題の学習には至っていない。
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今後の研究の推進方策 |
令和3年度は、内側側頭葉モデルと移動ロボットの相互結合を推進する予定である。移動ロボットの頭方位情報と速度情報に加え、ガスセンサ信号をGPU搭載計算機内の内側側頭葉モデルで処理し、においと場所に応じた適切な移動方向を学習する仕組みを構築する。ニューラルネットワークで決定された行動指令を移動ロボットにフィードバックし、移動ロボットはそれに従って移動するような仕組みを構築する。このGPU搭載計算機と移動ロボットの双方向の通信の仕組みを実現したうえで、移動ロボットが実環境で行動しつつ、条件刺激と無条件刺激を結びつけた学習ができるようにする。 痕跡恐怖条件づけでは、においを条件刺激とする方針である。そのために、ガスセンサアレイを移動ロボットに搭載し、においを識別する仕組みを取り入れる。ガスセンサアレイからのセンサ情報を内側側頭葉モデルへ入力し、条件刺激となるようにする。2種類のガスを用意し、その一方が条件刺激となるように学習させる。色刺激のような目印となるような信号を無条件刺激とし、条件刺激と関連させて学習する仕組みを導入する。移動ロボットとニューラルネットワークを接続した上で、ロボットの自律的な移動により場所情報の獲得と恐怖条件付け学習を進める。痕跡恐怖条件付けでは条件刺激と無条件刺激の間に一定の遅延時間を設けても学習が成立する必要があり、これには持続発火細胞、および時間細胞の特性を活用する。 Hodgkin-Huxley型の内側側頭葉モデルの作成にも引き続き取り組む予定である。 恐怖条件付け学習において得られる成果だけではなく、それに至る過程で得られた成果についても整理して発表する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度の特に前半は、大学への入構の制限があり、ロボットを用いた実験をする機会が限られ、計画に遅れが生じた。また、コロナ禍が収束することを期待して、国際会議への参加を予定していたが、予定していた会議が中止となったため旅費を使用する機会がなく次年度使用額が生じた。 令和3年度の予算は、研究成果の発表に使用する予定である。研究成果を発表するにあたり、論文投稿のための英文添削費用と投稿費用が必要である。出張が可能になれば、国内学会に参加するための旅費として使用する。現地開催が難しい場合、オンラインで開催される学会において研究成果を発表することを予定している。加えて、実機を用いた実験を進めるためにも経費が必要であるので、そちらも利用する予定である。
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