研究課題/領域番号 |
17K00346
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
前田 陽一郎 立命館大学, 情報理工学部, 教授 (40278586)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 知能ロボット / 生体情報 / ファジィ推論 / 視線計測 / 顕著性マップ / 行動意図 / 全方向移動車椅子 / 全方位カメラ |
研究実績の概要 |
近年、高齢者や障害者を対象とした支援システムの開発が進み、脳波、筋電、視線などの人間の生体情報が幅広く活用されている。中でも視線情報は脳波や筋電と比べると比較的ノイズが少なく、レスポンス性の高い随意的指示入力として利用できるが、視線には無意識反応も含まれる。本研究では、人間の視覚における受容野の働きを模倣した無意識的反応行動を解析できる視覚的顕著性マップと意識的注視行動を示す視線情報を基に、人間の行動意図推定マップをファジィ推論により生成し、無意識的反応を除去した意識的注視に基づく視線指示システムを提案する。さらに人間の意図をより正確に把握するため脳波や筋電などのマルチ生体情報を用いた意識的注視と無意識的反応の分析を行い、全方向車椅子の知的走行支援が可能なシステムの構築を目指す。 本研究の初年度(H29年度)では、無意識的な目の動きを行動意図推定する上で抑制し、視線情報において意識的な目の動きを重点的に抽出する手法を提案した。ここでは無意識的な目の動きを抽出する手法として視覚的顕著性マップを利用する。人間の目が無意識的に向けられやすい場所を示した顕著性マップと人間の行動意図が含まれている視線情報を示した視線マップを組み合わせ、ファジィ推論により総合的に判断して行動意図推定マップを構築した。さらに本研究の2年目(H30年度)では、脳波・心拍計測によるストレス度に基づく指示意図の信頼性評価手法を確立する予定であったが、生体信号を用いる前段階として、視線の停留現象に着目し、人間が注視している時間に比例して、視線の意識的な度合いを上昇させる手法を提案し、視線指示における意図抽出に基づく全方向移動電動車椅子ロボットによる走行制御実験を行い、有効性を検証した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度において本研究では、人間の無意識の注意情報を示す視覚的顕著性マップモデルと意識的な注視情報を示す視線情報を組み合わせることにより、より正確な人間の行動意図を推定する手法を提案した。ここでは、顕著性マップと人間の行動意図が含まれている視線マップを組み合わせ、ファジィ推論により統合して行動意図推定マップを生成し、全方向車椅子を走行制御するための視線教示システムを構築した。本手法に基づき、全方位カメラを用いて全方向車椅子の走行教示実験を行い、有効性を検証した。 さらに2年目では、視線計測における意識度と顕著性マップによる無意識度の抽出において、特に意識度については視線の存在する場所にのみ一定値の意識度を与えていたが、視線情報の中でも停留時間にも人間の意識的な情報が含まれていることに着目して、まず意識度の検出精度の向上を行うことにした。ここでは、視線の停留現象に着目し、人間が注視している時間に比例して視線の意識的な度合いを上昇させる手法を提案し、全方向移動電動車椅子ロボットによる走行制御実験で視線指示における意図抽出に対する有効性を検証した。 本研究成果については初年度に国際会議(FUZZ-IEEE2017)にて報告するとともに、2年目に日本知能情報ファジィ学会誌(30巻5号)にも論文が採録された。また、本研究に付随する研究として、初年度には筋電位による車椅子走行制御や人間の情動状態推定など生体情報における関連研究について国際会議(IFSA-SCIS2017)と国内学会(FSS2017)にて発表し、2年目には人間とロボット(機械)とのインタラクション研究の研究成果を国際会議(WCCI2018、SCIS-ISIS2018)および日本知能情報ファジィ学会誌(30巻5号)にて発表することができた。 上記のように本研究における達成度は当初の予定どおり概ね順調に達成したと判断される。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度である3年目の本研究では、2年目に注視時間に基づく視線情報による意識度抽出を行ったため、生体信号による人間の指示意図の信頼性評価手法について検討し、全方向電動車椅子ロボットによる知的走行支援システムの構築と性能評価試験を行う予定である。これまでに本研究室で行ってきたマルチ生体信号計測に基づくリラクゼーションサウンド生成システムのノウハウを生かして、操作者が視線による指示を出している際にどの程度のストレス負荷があるかを生体信号計測装置(ニホンサンテク(株)社製、科研費により購入済)で計測した生体信号により評価する。この際、ストレス度はリラクゼーション度とは逆の相関があると考えられるが、指示意図の信頼性については、また新たな評価指標を検討する必要がある。計測に用いる生体信号も脳波、心拍、発汗、筋電など様々な値を計測して、最もストレス度の評価に向いたものを選択することを考えている。 3年目の性能評価試験では、初年度に製作した全方向電動車椅子ロボットを用いて、全方位カメラまたは前方カメラ(研究室所有)による環境情報の映像を着座した車椅子の操作者前方に設置したモニタに映し、これを見ながら操作者は視線による目標地点を指示し、顕著性マップの算出によりファジィ意図推論を行いながら、車椅子を走行制御する。その際、同時に操作者の生体信号を基に人間のストレス度などの心理状態を把握しながら算出された信頼度に応じて、操作者の指示内容を実際の操作に反映させる実験を行う予定である。 最後に本研究の成果報告については、1~2年目までと同様に国内学会や研究会だけではなく、国内・海外における国際会議にも積極的に参加して外部発表を行い、昨年と同様に可能な限り課題研究の期間内に研究成果を学術論文として投稿したいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
【理由】 初年度にて購入予定であった全方向移動車椅子ロボットは計画通り依頼製作を行ったが、全方向移動車椅子が当初の見積額を超えて設計・製作費用がかかったため、視線計測装置(DITECT・QG-PLUS mini)は配分された予算での購入ができなくなった。そのため、科研費での購入は諦め、大学の研究費にて購入して実験に使用し、初年度(H29年度)に配分された研究費の残予算についてはかなりの額を次年度(H30年度)に持ち越すこととなった。しかしながら、2年目には国際会議などで出張旅費が増え、3年目(H30年度)への持ち越し額を大幅に削減できた。 【使用計画】 最終年度に持ち越した予算は、主に実験にて使用する予定の本研究室所有の生体信号計測装置の電極等の消耗品や、国際会議や論文投稿などの費用に充てたいと考えている。
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