本研究では,統計的性質が保証されたカオス真軌道を検証用のデータとして,乱数検定の独立性を解析することを目的として,次の3つの課題に取り組んでいる.課題1)乱数検定アルゴリズムのテストデータとしてのカオス真軌道の生成系の構成,課題2)NIST乱数検定の並列化と高速乱数検定サーバーの開発,課題3)乱数検定の独立性解析と乱数検定の評価アルゴリズムの開発.令和3年度は,課題3に関連して,乱数検定の類似度の評価と最適集合の構成,および,乱数検定の安全性の解析を行った.乱数検定の類似度の評価については,複数の対立仮説を設定し,対立仮説毎に得られるP値の平均値を乱数検定の特徴ベクトルとして,特徴ベクトル間の距離で乱数検定間の類似度の評価を行った.具体的には,マルコフ遷移に対応するカオス真軌道で理想的な擬似乱数からわずかにずらした対立仮説に対応する2値系列を生成し,NIST SP800-22に含まれる乱数検定の類似度を評価した.乱数検定の最適集合については,乱数検定の部分集合に含まれる検定の類似性を低くして多様性を高めることを目的として,含まれる乱数検定間の距離の総和を最大化する部分集合を構成する方法を検討した.本手法をNIST SP800-22の乱数検定に適用した結果,構成した最適集合には,検出力が高い検定だけでなく,検出力が低い検定も含まれる傾向が見られた.検定集合の多様性と検出力の高さの両立については今後の検討課題の一つである.乱数検定の安全性の解析については,カオス真軌道で生成した擬似乱数系列の検定結果のP値を参照分布とする 2標本 Kolmogorov-Smirnov(K-S)検定をNIST SP800-22に含まれる13種類の検定に適用し,一様分布を参照分布とする1標本K-S検定と比較して乱数性の評価が改善されることを示した.
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