研究課題/領域番号 |
17K00374
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研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
野本 弘平 山形大学, 大学院理工学研究科, 教授 (60456267)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 視線計測 / 注意配分 / 視線 / 街 / 相互作用 / 創発 / イメージ / 生態学 |
研究実績の概要 |
人の内的モデルである街のイメージをテキストの共起分析から明らかにし,それを形成するために為される視行動を,静止空間座標系での空間分布および時間分布として明らかにした1年目の研究成果を受け,2年目の研究では,人の内的モデルと環境からの情報との相互作用により視行動がどのように創発的に形成されるかという問題を扱った. まず,内的モデルである街のイメージについてはグラフ理論の中心性という概念を用い,街に長年住み続けている高齢者と,この2,3年の内にやって来た若者との比較を行い,イメージ構造の違いと,それをもたらした街との関わり方の違いを示した. また,人の内的モデルと環境情報との相互作用により形成される視行動として,視線が環境のどのような要素に誘われて移動し,結果的に人がそれを見るのかということを実験的に調べた.その結果,人は,建物や像や掲示物などの観光対象だけではなく,空間の広がりの変化にも同じくらい多く視線を誘われていることと,その規則性について明らかにした. そして,日本的な活気のある商店街を日本人居住者,日本人来訪者,および外国人来訪者に歩行させ,そのときのそれぞれの視対象とその遷移を調べた.その結果,日本人居住者は視線遷移において特に中心となる視対象を持たないが,日本人来訪者は文字情報を中心に視線遷移が展開し,外国人来訪者は店頭物とその他ものを交互に見ることにより視線遷移が展開することが分かった. さらに,日本的な風景の環境で,日本人と外国人とに歩行させる実験を行い,両者の視行動の3次元空間分布およびその形状を調べた.その結果,日本人は視線をあまり動かさずに遠方に視線を集中させる遠方凝視型視行動を,外国人は視線を周辺によく動かし下方にもよく目を向けて近距離の対象をよく見る近傍探索型視行動を,それぞれ行っていることを明らかにした.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の目標は,人(主体)と街(環境)との相互作用を,実験データに基づき明らかにすることであった.実験により計測できるもので,この相互作用を最も的確に示すものは視線であるので,「人の内的モデルと環境からの情報とにより創発的に視線は誘導される」という考えに基づき,視行動の様々な観点からの解析を行った.その結果,その人の街との関わり方とイメージとの関係,視線を誘う環境要因,視線遷移で展開の要となる対象,および遠方凝視型と近傍探索型の視行動について客観的,定量的に明らかにすることができた.以上の成果は,2年目までに目指した内容を包含しており,このことから本研究は順調に進展しているものと判断できる.
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今後の研究の推進方策 |
最終年度である3年目の研究目標は,1年目と2年目の成果を踏まえ,人(主体)に対し,創発的に感性価値を発見させる街(環境)の構造を明らかにすることである.これまで1,2年目の実験では,人と環境との内で,人の方の属性を,たとえば居住者と来訪者,日本人と外国人のように変化させて同じ環境に対して相互作用を観察したのに対して,3年目に行う実験では,前者の人の方は一定にして,後者の環境の方に多様性を持たせて,相互作用を観察する.そして,同じ人が,どのような環境要因の違いにより,感性価値を発見するのか,またはしないのかを,実験データから明らかにする. ここで言う環境要因とは,人に対して創発的にある行為を取らせる環境情報,すなわち一種のアフォーダンスである.そしてこれには,静的なものと動的なものとがあることが,1,2年目の研究成果から分かっている.この環境情報が,人にどのように知覚,認知され,その結果創発的にどのような行為に結び付くかという因果関係を,データに基づき明らかにする. 一方,この実験で難しさが予想されるのは,感性価値をどのように量として計測するかということである.感性価値には,意識されるものもあるが,無意識のうちに琴線に触れるものもある.また,瞬間的に心に響くものもあれば,次第に心に染みて行くものもある.このような感性価値を,実験における具体的な計測値として観察するための方法論を,現在調査,検討中である.
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度は,日本人と外国人とが,日本的環境との相互作用をどのように行うかを,視線計測装置などを用いて計測する実験を行った.この実験のための当初の見積もりでは,外国人の実験協力者を集めるために,高額なリクルート費用を要することが予想されていた.しかしその後,大学内で留学生や国際交流を担当する部門からの好意的な協力を得ることができ,このリクルート費用を節約することができた. また,当該年度の研究の過程において,最終年度に行う実験において,視線計測装置のデータ処理のための特殊なソフトウェアが必要になることが予想されたため,そのための資金を確保するために,当該年度における製品等調達などを極力節約した. これらのことにより,次年度使用額が生じた.
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