研究実績の概要 |
主体の環境に対する絶対的優位性を前提とせず,両者の相互作用の結果として主体の行動が創発的に決まるという生態学的視点に立って,人(主体)と街(環境)との相互作用を計測し,街の感性価値(魅力)とそれを人に発見させる街の構造を検討することを,研究の目的とした. まず,主体の環境に対する内的イメージを客観的データに基づいて可視化した.この研究では,街に長年住んでいる高齢者と,この街に2,3年前にやってきた若者とに,その街を歩いて興味を持ったものを撮影させ,なぜ興味を持ったのかを説明する文章を書いてもらった.その文章を形態素解析し,単語の共起頻度に基づくグラフ構造により,それぞれの内的イメージを表現した.そして,その中心性等の指標によりそれらを意味付けた. つぎに,環境が人に及ぼす誘目性の研究を行った.この研究では,街歩きの実験を行い,街という環境の中を人という主体が移動することにより変化する両者の関係と,主体の視線の遷移との関係を解析した.その結果,主体の視線は空間の動的広がりに応じて変化し,視対象が決まっていくことを明らかにした. また,主体のタイプによる環境への注意配分の違いの研究を行った.この研究では,日本の下町的な商店街を日本人居住者,日本人来訪者,外国人来訪者に歩行させて,その時の視線を計測する実験を行った.その結果,外国人来訪者は店頭物を中心に視線移動が展開ことするなど,それぞれの特徴が明らかになった. そして,日本人と外国人との注視点の空間分布の形状を3次元で解析する研究を行った.その結果,日本人は遠方凝視型で外国人は近傍探索型の視行動を取ることを明らかにした. さらに,環境の色彩分布が主体に及ぼす影響に関する研究を行った.その結果,わくわく感と解放感という2つの印象因子を特定し,これらを誘発する色彩的特性を明らかにした.
|