研究課題/領域番号 |
17K00383
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研究機関 | 九州工業大学 |
研究代表者 |
河野 英昭 九州工業大学, 大学院工学研究院, 准教授 (00404096)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ミラーニューロン / ASD / 脳波 / スパイキングニューラルネットワーク |
研究実績の概要 |
自閉スペクトラム障害(Autism Spectrum Disorder, ASD)は,人口の1%が該当する発達障害の1つである.ASD患者は,定型発達者に比べ,実践的言語,共感性,模倣能力などが低い.共感性とは,他者の行動を観察し,そのときの感情の状態を理解する能力であり,対人関係や社会性の発達において非常に重要である.彼らは学校や職場などで周囲と円滑なコミュニケーションを築きづらいため,そこで経験する苦痛はQOLの低下を招くおそれがある.そのため,疾患の症状を改善することは重要である.現在のASDの診断方法は,専門家による行動観察や問診といった定性的な手法である.しかし,患者によって症状の程度が様々なことや,他の発達障害の症状や他の精神疾患が併発している場合もあり,症状の鑑別が難しい.そのため,専門家によって診断結果に差が生じる,あるいは診断結果が分かるまでに時間がかかるといった問題が生じうる.そこで,症状を数値で定量的に表現する指標(バイオマーカー)を確立することは,上述した問題の改善や,診断の支援を可能とするため,大変意義が大きいと考えられる. 本研究の目的は,Spiking Neural Network (SNN)アーキテクチャであるNeuCubeを利用し,ASD患者の脳活動を,脳波によって定量的に評価するシステムの開発を目的とし, ミラーニューロン現象に基づき,NeuCubeを用いて,ASD患者の脳波信号の定量化を行った.顔表情と手の開閉動作の知覚時と模倣時被験者から取得した脳波データを用い,ニューロン間の結合重みを算出し,可視化を行った.その結果,顔表情閲覧時の知覚および模倣において,ASD患者と健常者間で明確な違いを確認することができた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
発達障害者の支援施設との連携を行い、データを安定的に取得できる環境が構築できており、これまでデータ収集に関して困難な状況が打開できつつある。また、データ取得後のデータ解析方法についてはほぼ完了しており、新規データの解析の準備が整備されている。
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今後の研究の推進方策 |
より安定的に差分を取得するためには,アルゴリズムの精緻化が必要であることが分かってきた.その対策としては,(1) 前処理によるノイズ除去,(2) NeuCube学習パラメータの最適化の2点を重点的に精緻化することで,安定化が図れることがわかった.アルゴリズムの精緻化にあたっては,NeuCube開発者とも連携して行っていく予定である.
倫理的問題からASD患者の実験への協力は難しく,十分な被験者を確保できなかったが,少数ながら健常者と知的障がい者の間で,脳活動データに置いて有意な差があることが確認できた.当初は顔表情の知覚と生成時の脳波に注目して解析を行ったが,手の開閉動作で得られた脳波データの方が,有意差が大きい傾向が見られた.手の開閉動作の方が知的障がい者にとってタスクの理解がしやすいことが考えられる.今後は表情動作と共に,手の動きを伴う動作についてもデータを取得して,解析を行う予定である.また,データ数確保のためには,新たなデータ収集の場を作る必要性があり,別の施設でも実施できるように調整を行なっている.
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次年度使用額が生じた理由 |
被験者実験の協力が次年度にずれ込んだことから、被験者謝金の予算として割り当てた金額が次年度に繰り越された。
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