研究課題
自身の容姿のわずかな瑕疵に強迫的にとらわれる「身体醜形恐怖懸念」(以下、醜形恐怖)は、その一因として審美的な判断の仕組みに異常があると考えられる疾患である。この醜形懸念をとりあげ、審美的判断に関する脳機能研究(神経美学)のこれまでの成果を利用して、その認知機構、脳内機構の解明を試みることが本研究課題の目的である。本研究の被験者は、BDD (Body Dysmorphic Disorder)-Syndrome Scale尺度により醜形恐怖懸念傾向があると認められた健常成人である。初年度の研究では、醜形恐怖が身体像に限局された審美判断の問題であるか行動実験を行った。その結果、醜形恐怖傾向高群では、自己身体像条件において標準スコアより低い美醜評価が得られた。一方、他者身体像条件と風景条件(非身体像)とでは標準スコアと同等であった。実験心理学的手法で、身体醜形恐怖が身体認知に限局した現象であること確認し、その実験的刺激、手法を確立した。本年度では、同実験刺激(自己身体像、他者身体像、非身体像)を用いて、審美的判断と知覚的判断(非審美的判断;体勢・姿勢の判断)を比較し、醜形恐怖が美醜とは無関係の知覚的判断においても影響をあたえているのか検討した。これまでの解析では、醜形恐怖傾向の低・中の被験者群では、対照群との有意な差はみとめられなかった。しかし、醜形恐怖傾向の高い被験者群では異なる傾向がみられた。現在、この傾向差について詳細な解析をおこなっている。
3: やや遅れている
身体醜形恐怖傾向が、非審美的判断(体勢・姿勢判断)では影響しないことを確認した。しかし、醜形恐怖傾向が高い被験者群では異なる結果が得られたため、現在その点について詳細な心理物理実験を準備中である。そのため、本年度後半に予定していた機能的MRI実験の開始が遅れている。ここまでの行動実験結果の一部は、International Association for Empirical Aestheticsで発表した。現在、国際学会誌に投稿準備をしている。
今後の研究では、初年度と次年度(審美判断vs非審美判断)で確立した行動実験課題を用いて脳機能画像実験を行い、身体醜形恐怖懸念傾向の高い被験者群に特異的に現われる脳活動を調べる。具体的には、審美的判断に関係する眼窩前頭皮質の活動変化とともに、情動処理に関係する前頭皮質の高次領域である背外側前頭前野、そして視覚的身体情報の処理を担うことがわかっている有線外視覚皮質の活動に注目する。これらの関心脳領域の各活動を観察するとともに、領域間の機能的結合を Dynamic Causal Modellingを用いて検討する。
(理由)本年度すべて使用予定だった機能的MRI施設使用料を、行動実験の結果の関係で次年度に繰り越す必要があったため。(仕様計画)繰越金は、計画通り機能的MRI施設使用料に使用する。
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Progress in Brain Research
巻: 237 ページ: 343-372
10.1016/bs.pbr.2018.03.021.