研究実績の概要 |
和音の認知,特にその協和度の認知の研究において,周波数比と比較して周期比は等閑視されてきたと言わざるを得ない.ピッチの知覚に対して周期の認知は重要であることが認識されているのだから,和音においても周期比は重要なはずである.我々は,両方の比を同等に扱って,簡単に図示する方法を考案した.既約な周波数比を構成する自然数がf1<f2<f3であるとき,Sf=1/f3を周波数比の単純度と定義する.周期比Spも同様に定義する.和音の構成音は高調波(harmonic)音列,および分数高調波(sub-harmonic)音列より選ぶ.前者は基音の周波数のk(自然数)倍の音列,後者は基音の周期のk倍の音列である.ただし1オクターブ以内に収めるため,適当な自然数nを用いて周波数および周期を1/2^n 倍する.これによりmaj (長三), min (短三), dim (減三), aug (増三)和音をそれぞれの音列で作ってSf, Spを求めてプロットする.たとえばmaj_H, maj_SHはそれぞれ高調波系列,分数高調波系列による長三和音を表す.Sf-Sp平面内にこれらの和音をプロットすると,maj_Hとmin_SHの組み合わせが,異なる2和音で(直線Sf=Spに関して)線対称な唯一の組み合わせであることが分かった.他の対称な組み合わせは,dim_SHと dim_Hやaug_Hとaug_SHなどのように同じ種類の和音の,違う音列による表現を用いた組み合わせであった.七の和音についても同様な解析を行ったところ,異なった2種の和音で対称な位置にある対は,Mm7(属7)_Hとhdim7(半減7)_SHの組み合わせのみであった.この結論が和音の認知の行動学的および神経生理学的側面とどのような関係があるのか,重要で興味深い問題であるので,今年度より取り掛かりたい.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
大体の検討をつけて開始した和音プロットに対する研究であるが,その詳細な点までの確認をすることができた.神経生理学的な研究が進んでいないように見えるが,実は前回の科研費での研究である旋律認識の研究の続きを,和声に重点を置いて進めているので,上には成果としてまだ書いていないが,その方向にも進捗している.これはA, B二通りに錯聴可能な多義的旋律の研究で,聴者がA, Bを聞いたときの脳活動の差を検出しようとするものである.このとき元になる旋律が長三和音,短三和音であるときの違い(差の差)を調べた.これは和音の2次元プロットに結びつくかもしれないと考えている.そういう意味で,紆余曲折ではあるが道を見つけつつある.
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