研究実績の概要 |
和音の2次元マッピングについて新たな提案をし,その音響心理学的,音楽的意義について研究した.和音を構成する音の周波数比を(互いに素なn個の整数f1<...<fnによる)f1:f2:..:fnとするとき,周波数比の単純度をSf=1/fnと定義し,また周期比をp1:p2:...:pn (p1>p2>...>pn) とするとき周期比の単純度をSp=1/p1と定義した.三和音(n=3)と7の和音(n=4)について(Sp, Sf)を計算し,2次元のSp-Sf平面にプロットした.純正律音階(-J),倍音系列(-H),分数倍音系列(-SH)から得られる音によって和音を構成した.三和音は maj, min, dim, sus4, augの5種類,7の和音はM7, m7, Mm7, HD7, O7の5種類とした.(HDはhalf-diminishedの略) 各和音の基本形,展開形について(Sp, Sf)を調べプロットした.三和音内ではmaj-H, min-SH が直線Sf=Spを軸として対称な位置にあり,7の和音内ではMm7-HとHD7-SHが対称な関係にあった.他の対称関係は,Dim-SHとDim-Hのように同種の和音での-SH表現と-H表現の間に存在するものだった.長短三和音(maj, min )の間の性格上の対照性,19世紀後半以降の和声に重大な影響を与えたR. WagnerのTristan und IsoldeにおけるHD7→Mn7の特徴的な和声進行などと,研究結果を照合すると興味深い.さらに,Sd=Sf+Spを三和音内で比較するとmaj>min>sus4>dim>augとなり,これは三和音の協和度の主観的評価の研究結果のほとんどと一致する.これらのことから,和声の(Sp, Sf)表現は和声の重要な側面を表していると考えられる.
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今後の研究の推進方策 |
第一には,現在修正中の論文を完成し出版する. 次に,その内容にしたがって行動学的実験,神経生理学的実験(MEGを用いて)をすることを予定している.これは昨年度の冬,春休みに開始する予定であったが,新型コロナの影響で開始が延期となってしまっている.被験者を伴うこれらの実験が不可能となった場合も考えて,シミュレーションなど他の手段が考えられないかどうか,たとえばニューラルネットを用いる方法などの検討もしてみたいと考えている. 行動学的実験,神経生理学的実験では,和音の情動的側面とSf,Spとの関係について調べ,それらの情動的側面が,聴覚情報処理機構のどのような側面と関係しているかを調べることを目標とする.まず行動学的実験で,協和度,明暗度,悲喜,感傷など色々な情動表現と各和音の関係を調べその結果から,和音の分類に適し,また和音の(Sp, Sf)ベクトルを特徴づける情動表現をいくつか選択する.次に神経生理学的実験において,選択された情動表現に関して和音を評価するという課題を与えて,和音聴取時の脳磁界を測定する.これによって,情動表現と脳の反応部位の関係,ひいてはSf, Spと脳の反応部位との関係を調べる.
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