研究課題/領域番号 |
17K00392
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研究機関 | 金沢工業大学 |
研究代表者 |
松下 裕 金沢工業大学, 情報フロンティア学部, 教授 (60393568)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 感性情報学 / 感性計測評価 / 眼球運動 / Webサイト / 情報探索 / 確率推論 / スライドショー |
研究実績の概要 |
メインビジュアル内にスライドとメニュー項目が混在するWebサイトにおいて,情報探索時間を視線データから推論するモデルをベイジアンネットワークによって構築した.まず,スライドの両側と下側の12か所に配置されたメニュー項目において,左または左下にターゲットを置いた状況で,被験者に情報探索を行わせ,探索時間と眼球運動を計測した.さらに,探索時間が長くなった被験者の閲覧特性をベイジアンネットワークにより分析した.その結果,次のような知見が得られた. ・殆どの被験者は最初にスライドから目を切る.このとき,左方向か右方向に視線を移動させるが,直接左または右に目を動かす場合と,最初に目を下方向に動かしてから左または右に動かす場合に分類される. ・ターゲットの配置位置(左 or 左下)間で被験者の探索時間の平均に有意差は生じなかった.しかし,いずれも,最初に右方向(ターゲットと逆方向)に視線を動かすと,左方向に視線を動かした場合に比べて有意に探索時間が長くなった.従って,スライドの両側と下側のメニュー項目は削除されるべきである. ・直接右方向に視線を移動させた被験者では,各メニュー項目の内容を正確に理解しようとすると探索時間が長くなる傾向がある.一方,視線を下方向に向けてから右方向に移動させた被験者では,各メニュー項目を走り読みできなかった場合に探索時間が長くなる傾向がある. 次に,情報探索時の当該情報の価値を評価する関数を考案するため,一般化された外延構造(extensive structure)に主観的時間の右作用を導入した.その結果,一般化重み付き加法形関数を誘導できた.特に,情報の価値の減少が探索に要した(主観的)時間のみに依存すると仮定すると,一般化重み付き加法形関数の重み部分(価値割引関数部分)が指数関数になることが判明した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
スライドとメニュー項目が混在するWebサイトにおける情報探索時の閲覧特性については,ターゲットを左側に配置したときのみの実験ではあったが,スライド周辺のメニュー項目の配置が円滑な情報探索に悪影響を与えていることを確認できた.このとき,ベイジアンネットワークの要因分析により,周辺に配置されたメニュー項目が被験者の情報探索の遅延にどのようにして影響するかについてのメカニズムも解明することができた.以上より,周辺メニュー項目の削除を,その根拠を示した形で,提言することができた.また,情報探索時の情報の価値を評価する関数の提案については,具体的な関数形を議論するための土台を構築することができたため,次年度以降の研究指針が明確になった.
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今後の研究の推進方策 |
H30年度も,スライドの周辺12か所に配置されたメニュー項目のいずれか一つにターゲットを置いた状況で,ユーザに情報探索を行わせ,探索時間と眼球運動を計測する実験を行う.特に,今年度は,右側にターゲットを配置した場合の実験も行い,その結果が左側にターゲットを配置した場合の結果(今年度実施)と同様であるか否かを調べる.左側配置では最初に視線が右側に移動すると左側に移動した場合に比べて探索時間が大幅に長くなるが,右側配置でも同様のことが起きるか否かを調べる.さらに,探索時間が長くなったユーザの閲覧特性を分析し,右側配置と左側配置の遅延メカニズムを比較する.具体的には,眼球運動特性を説明変数に,探索時間を目的変数に取り,ベイジアンネットワークによる予測モデルを構築し,探索時間が長くなったユーザの閲覧特性を抽出する.以上より,ターゲットをあらゆる位置に配置して実験と分析を行うことにより,今年度の「スライド周辺にメニュー項目を配置するべきではない」という結論の妥当性を検証する.また,情報探索時の情報の価値を評価する関数については,重み関数(価値割引関数)が指数関数になることを前提とした上で,そこに条件を付与することにより派生される関数形を考察する.具体的には,主観的時間に対する結合演算に何らかの性質を付与したときに得られる重み関数の形状を調べる.
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は今後の研究を遂行するための調査(国際会議参加)と得られた研究成果の公表を中心に研究費を使用した.残額の研究費は今年度open accessで採録された論文の掲載費として使用する予定である.さらに,H30年度以降に本実験を遂行する予定であり,アイトラッカーの導入を次年度に行っても研究遂行上の問題は生じない.
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