研究課題/領域番号 |
17K00395
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
平野 敏行 東京大学, 生産技術研究所, 助教 (60451887)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | タンパク質 / 波動関数 / データベース / 量子化学 / 電子状態 |
研究実績の概要 |
PDBに登録されているタンパク質構造から、アミノ酸のみで構成されるタンパク質だけでなく、ヘテロ分子も含むタンパク質の自動的にモデリングと電子状態計算を実行する、ロバストな自動計算環境の研究・開発を行った。PDBに登録されている構造データの多くは、X線結晶構造解析とNMR解析によるものである。水素原子の付加や欠損部位の処理、結晶水やヘテロ原子に対する処置、溶媒の取り扱い方など、量子化学計算に至るまでに必要なモデリングは多段階に及んでいる。厳密なモデリングが必要な理由は、1原子たりとも矛盾のある分子構造を許さない量子化学計算の要請によるものである。タンパク質は原子数が多く、異常接近原子対や構造の歪みに対するチェックを、すべて人の手で行うには限界がある。 本研究では、タンパク質実験構造から量子化学計算に至るまでのモデリング手順をプログラミングし、インタラクティブ性の無い、自動バッチ処理が可能なモデリング技術の確立を目指した。モデリングには、水素付加、構造緩和、構造最適化など複雑な操作に加え、それら操作には多くのパラメータが存在する。本研究で開発したプログラムでは、デフォルト値を設定し、一般的なタンパク質であればそのままモデリングが行われるようにした他、特殊なタンパク質の場合はパラメータを容易に変更できるように作製した。実際に、いくつかのモデリングできた小規模タンパク質の電子状態シミュレーションを行い、モデリングの妥当性を評価した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
これまでにタンパク質のカノニカル分子軌道計算における初期分子軌道の作製において、擬カノニカル局在化軌道(QCLO)計算法に基づく自動計算プログラムQCLObotを研究・開発している。入力形式として、テキスト形式で構造化モデルを記述できるYAML形式を採用し、QCLO計算に伴う手順とモデルの階層化を表現することができる。また、何度同じ操作を繰り返しても同じ結果が得られる冪等性を確保している。冪等性は試行錯誤が必要なタンパク質カノニカル分子軌道計算において、必要不可欠で便利な機能である。 本研究ではこのQCLObotをベースとして、タンパク質実験構造から量子化学計算モデルを作製するモデラープログラム(QCLObot_modeler(仮称))を作製した。構造緩和の手段として、分子動力学法プログラムであるAmberパッケージを利用した。分子動力学計算における力場、ステップ数、温度などの諸条件・パラメータは、タンパク質によって変更すべきである。従って、各パラメータはデフォルト値の他、QCLObot_modeler入力ファイルによって変更可能としている。QCLObot_modelerは分子動力学プログラムのラッパーとして機能するため、入力ファイルのキーワード・値の変更なしに、後にGromacsなど他の分子動力学パッケージを利用することも可能である。 QCLObot_modelerプログラムを利用して数十残基相当のタンパク質カノニカル計算を行い、モデリングが確実に行われることを確認した。複雑なヘテロ分子のモデリング・カノニカル分子軌道計算へのプログラムの対応はまだ不完全であり、今後の開発・作業事項である。
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今後の研究の推進方策 |
タンパク質電子状態データベースとして登録・利用する仕組みに関する基盤研究を継続して行う。大量のカノニカル分子軌道計算をスムーズに行うために、計算構造に問題が無ければほぼ失敗せずにタンパク質分子軌道計算を安定に達成する、自動計算ロボットを研究・開発する。本研究で開発したQCLObot_modelerを用い、幾つかのタンパク質モデリングを行い、その後カノニカル分子軌道計算を行うことでモデリングの妥当性を評価する。様々なヘテロ原子を含むタンパク質カノニカル分子軌道計算の自動化に着手し、様々なタンパク質の自動計算が行えるシステムを構築する必要がある。不規則なヘテロ分子を完全にサポートすることは難しいが、自動計算がうまくできない場合に備えて、エラーの原因解明をスムーズに行うために様々な解析ツールの開発を行う。エラーの原因が計算構造に起因する場合は、それをモデリングにフィードバックする機構も検討する。 加えて、電子状態計算エンジンの高速化・効率化を図る。これまで開発した計算エンジンをベースに、データのスパース化ならびにGPUなどのアクセラレータを利用した行列演算の高速化を検討し、電子状態計算時間の短縮を図る。また、初期波動関数作成に利用するQCLO計算においても、高速化・並列化作業を行い、計算時間の短縮化に関する研究開発を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
タンパク質分子軌道計算構造のモデリングプログラムの研究開発および様々なヘテロ分子へ対応が遅れ、それに伴いモデリング作業が遅延した。本研究では、タンパク質計算構造モデリングが達成した後に、その構造をベースにカノニカル分子軌道計算を行う計画である。カノニカル分子軌道計算には一つあたり数TBのデータが必要となる。その記憶装置と付随する装置の購入予算として計上した。本年度は、達成したカノニカル分子軌道計算はまだ小規模のテスト段階であり、記憶装置の購入段階ではなかった。カノニカル分子軌道計算事例が増加する次年度以降、記憶装置およびそれに付随する計算機の導入が必要であり、計画している。
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