タンパク質の電子状態シミュレーションは、実験と相補的に利用することで、タンパク質の物性・反応性を理解する上で非常に有用である。しかし、シミュレーション達成までの難易度が高く、また計算コストも高い。本研究では、電子状態シミュレーションエンジンの高速化・効率化を図り、タンパク質のモデリング・電子状態計算など電子状態計算に関するプロセスの自動化に関する基盤研究を発展させる。タンパク質電子状態計算結果を再利用可能なデータベース(DB)として蓄積し、タンパク質電子状態に基づく効果的なタンパク質機能解析・バイオインフォマティクスに展開する解析用ソフトウェアの基盤研究を行うことを目的とした。 これまでに開発した自動計算システムを用いてタンパク質電子状態計算を行った。適宜、モデリングや電子状態計算の確認を行い、計算が適切に進行していることを確認しつつ、問題が発生した場合は自動計算法の改良を行った。ヘテロ分子を含むタンパク質のモデリングは自動化が難しく、計算力場を安定的に計算することに苦労した。また界面活性剤などが含まれている場合、これらをモデリング・計算対象から取り除く必要がある。このため今年度の電子状態計算におけるスループットは良くなかった。 新しい解析手法として、相互作用エネルギー解析の試験実装を行った。タンパク質のカノニカル計算は達成そのものが非常に難しく、例えば各アミノ酸残基の相互作用エネルギー解析を行うのは現実的ではない。本研究では電子状態計算から得られた行列要素に対し、フラグメント分割することによって相互作用エネルギーを見積もった。求めた相互作用エネルギーの可視化ツールも作成した。塩橋やジスルフィド結合、二次構造に特徴的な相互作用エネルギーパターンを確認することができた。これにより、電子状態計算DBにおける相互作用の見積もりがより簡単に確認することができるようになった。
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