研究課題/領域番号 |
17K00400
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研究機関 | 電気通信大学 |
研究代表者 |
森田 啓義 電気通信大学, 大学院情報理工学研究科, 教授 (80166420)
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研究分担者 |
太田 隆博 長野県工科短期大学校, 情報技術科, 准教授 (60579001)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 反辞書 / 有限状態確率モデル / 量子化モデル / 瞬時圧縮率 |
研究実績の概要 |
申請者らがすでに考案した多値アルファベットに対応した反辞書生成法を用いて,(a) 不整脈データの反辞書確率モデル生成プログラムを作成.(b) Web上で公開されているMIT-BIH Arrhythmia Databaseの心電図波形を(a)で作成したプログラムの入力として用い,反辞書確率モデルを得た.(c) つぎに,不整脈検知実験を行い,従来法と同程度の検出性能が得られることを確認した.データ処理を簡略化するために,時間的に隣接するデータ点(シンボル)同士の差分をとること,差分値の量子化を行うことにより,装置の簡素化が図れた. 不整脈の検出率向上のためには,反辞書確率モデルの性能解析を行ない,その性能限界を見極めておくことが重要である.しかし,実験的にはよい圧縮性能を持つことで示されているにも関わらず,反辞書確率モデルは,理論的には,これまでは特別な情報源に対する漸近的最良性を持つことしか示されていなかった. そこで今年度は,反辞書確率モデルの性能評価を行い,定常エルゴード情報源に対して反辞書符号化法の漸近的最良性を示した.その過程で,反辞書確率モデルと既存の部分列数え上げ符号化法の確率モデルが同型であることを明らかにした.それに加えて,多値アルファベットに対する部分列数え上げ符号化法の圧縮率改善手法を考案した. さらに従来の不整脈検出法では,心室性期外収縮のみを対象とし,正常洞調律やその他の不整脈は含まれていなかった.今年度は,その波形群から不整脈及び正常洞調律のクラスタリングを行う予備実験を行った.クラスタリ ングが可能であることは確認できたが,個人ごとにアドホックな方法でのクラスタリ ングであるので,MFW と不整脈の対応関係を解析して一般化を図る必要があることが分かった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
データベースから入手した心電図データは1サンプルあたり11ビットの数値として表現されており,それらを異なる記号として表すと記号の総数(アルファベットサイズ)は2048となり,そのままでは反辞書,すなわち,2048元の記号列に出現しない極小部分列全体の集まりを作成することは計算機のメモリ資源から現実的ではない. そのため,従来法では心電図データをビット単位の2元列とみなして処理を行っていたが,1サンプルの上位ビットと下位ビットがもつ情報量を区別していなかった. また,概周期波形として知られる心電図データの時間的な変動についてもこれまでほとんど考慮されていなかったが,今年度の研究成果から,もとのデータの差分をとることによって,差分データがラプラス分布で近似できることを見出すことができた.その上で,差分データの量子化を行えば,元データのアルファベットサイズを1/200程度に削減しても,異常波形検知はほとんど変わらないことが示せたことは大きな成果である. しかし,量子化のためのしきい値の設定に依存して検知性能も大きく変動するので,量子化しきい値の最適な選択方法という新たな課題が浮かび上がってきている.これは研究当初は予期していなかったことなので,研究の進展としてはおおむね順調に進展していると判断する.
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今後の研究の推進方策 |
まずは上述した量子化しきい値の選択方法も研究課題に加える.選択方法としては,まずニュートン法の適用を考えている.すなわち,適当な初期値からはじめ,しきい値に摂動を加え,検知性能が高まる方向にしきい値を徐々に変化させていく.これを出発点として,必要に応じて改良を施していく.それと並行して,当初の予定通り,下記の課題にとりくむ. 1. スマフォ端末への検出システムの仮実装(森田) 検出システムの実装は普及しているスマフォ端末 (iPhone, Android) を用いて行い,実際の心電図センサから送られてくる心電図データから検知が可能であることを実証する.今年度の成果で,不整脈を含むデータをリアルタイムでセンサからスマフォ端末側に送信できる見通しが立ったので,長期観測を実施する.同時にデータ解析実験のために,先に述べた MIT-BIH のデータベースを利用して,不整脈を含む心電図データを人工的に作成し,前年度に構築を予定しているエミュレータで仮想的に送受信することで実装を検証する. 2. 仮システムの評価(森田・太田) 実際にシステムを稼働した状態で,処理速度やメモリ量,そして消費電力の測定を行う.さらに不整脈の検知ならびに不整脈の種別分類の精度を評価するためには,個々の被験者の臨床データに適用するのではなく,基本的に,前述の MIT-BIH のデータベースや他の学会が提供する不整脈と判定されたデータを用いる.これにより,医療従事者でない一般の工学系研究者による臨床 データの不整脈判定という診断行為を回避した上で,試作したシステムに対して信頼度の高い評価を行う.
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次年度使用額が生じた理由 |
謝金に関しては,今年度は手続きに間に合わず,他の予算で充当した.今年度は当初より謝金にあてる予定である.
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