研究課題/領域番号 |
17K00401
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
阿部 貴志 新潟大学, 自然科学系, 准教授 (30390628)
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研究分担者 |
池村 淑道 長浜バイオ大学, バイオサイエンス学部, 客員教授 (50025475)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 一括学習型自己組織化マップ / 水平伝播候補遺伝子 / 南極細菌 / 共生細菌 |
研究実績の概要 |
生物の進化や環境適応には生物種間での遺伝子の水平伝播が大きな役割を果たしていると考えられている.しかしながら,従来の配列相同性検索では水平伝播遺伝子の検出は限界があり,ゲノム全体における水平伝播遺伝子の全容解明には新規解析手法の開発が求められている. 今年度は,これまで開発してきた水平伝播予測手法のさらなる改良を行った.従来の連続塩基組成のみに着目してゲノム配列断片を生物種別に高精度に分類可能な一括学習型自己組織化マップ(BLSOM)による水平伝播の候補ゲノム領域の検出に加え,近縁種ゲノム間での保存遺伝子の双方向ベストヒット解析を組み合わせる手法を開発した.よりそのゲノムが持つ固有の機能に特化した水平伝播の候補遺伝子検出と由来生物系統の推定が可能となった.南極コケ坊主由来のSphingomonas属細菌2種で評価したところ,水平伝播の由来は大きく異なったが,膜タンパク質など獲得した遺伝子機能に共通性が示唆された.また,アミノ酸組成でも南極株と近縁の他の大陸由来株の遺伝子で差異が認められ,遺伝子の水平伝播に基づく南極細菌の種固有な低温適応戦略の一端を明らかにすることができた. さらに,真核生物の共生関係解明のための予測システムとして開発したBLSOMを高速化した自己圧縮型BLSOMを用いた予測システムを用いて,植物と微生物の共生関係下における水平伝播遺伝子の検出を行うべく,7種のモデル植物と微生物ゲノムを対象にした解析を行った.その結果,植物ゲノムと共生細菌である全既知微生物で明瞭な分離が見られたが,各植物ゲノムの1%前後のゲノム配列断片が原核生物由来の領域に分類されていた. 今後,植物共生細菌などのさらなる実課題での解析を行い,開発手法の更なる改良と活用を目指す.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は,従来の検出手法に加え,近縁種ゲノム間での保存遺伝子の双方向ベストヒット解析を組み合わせる手法を開発した.本手法の検証として,南極由来のSphingomonas属細菌ゲノムを対象に,水平伝播の候補遺伝子の同定とその由来となる生物系統推定を行った.その結果,南極株は他の大陸起源の近縁種に比べ,ゲノム上での水平伝播遺伝子の割合が高く,その中には細胞壁あるいは細胞膜の機能に関連する多数の遺伝子が示唆された.また,水平伝播遺伝子の由来は南極株2種で大きく異なることも示唆された.次に,ゲノム上の遺伝子のアミノ酸組成解析を行った結果,南極株は大陸株よりLys,Ser,Thr,Valの割合が高く,特に水平伝播遺伝子においてその傾向が顕著に示された.南極細菌のゲノムレベルでの環境適応の一端を明らかにすることができた. BLSOMを高速化した自己圧縮型BLSOMを用いた予測システムを用いて,7種類の植物とその共生細菌間での遺伝子のやり取りの全体像を解明かすため,共生細菌から植物へ取り込まれた水平伝播候補遺伝子の網羅的な検出とその由来の推定を行った.植物ゲノムと共生細菌である全既知微生物で明瞭な分離が見られたが,各植物ゲノムの1%前後のゲノム配列断片が原核生物由来の領域に分類されており,それらを水平伝播候補とした.その結果,6種類の植物においてFirmicutes門が最も多く検出され,科レベルでは4種類でClostridiaceae科,2種類でPeptostreptococcaceae科が多く検出され,水平伝播遺伝子の由来として検出された生物系統にはある程度の共通性が見られた.今後,共通に獲得した遺伝子機能や,各植物が個別に獲得した遺伝子機能の解明を試みる.
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今後の研究の推進方策 |
引き続き,南極由来細菌や真核生物とその共生細菌間に対する解析を行いながら,これまで開発してきた水平伝播遺伝子予測システムを統合化し,幅広い研究者にとって利用しやすい解析システムとしての公開を目指し,プログラム開発を行うともに成果発表を行う. また,昨年度より開発を勧めている真核生物の共生関係下にある生物間での低分子RNAに着目した水平伝播予測システムの開発を引き続き行う.生物種の対象を広げながら,開発した手法の評価を行う.さらに,本開発手法を,近年,様々な機能を持つことが明らかとなってきた真核生物ゲノム内の内在性ウイルス様配列の検出などへの拡張を目指す.
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定していた国際会議への参加を,次年度に持ち越したために,次年度使用額が生じた.主に,成果発表のための旅費と論文投稿費用としての利用を計画している.
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