生物の進化や環境適応には生物種間での遺伝子の水平伝播が大きな役割を果たしていると考えられている.しかしながら,従来の配列相同性検索では水平伝播遺伝子の検出は限界があり,ゲノム全体における水平伝播遺伝子の全容解明には新規解析手法の開発が求められている. 今年度は,水平伝播予測ワークフローとして開発してきた,従来の連続塩基組成のみに着目してゲノム配列断片を生物種別に高精度に分類可能な一括学習型自己組織化マップ(BLSOM)による水平伝播の候補ゲノム領域検出と近縁種ゲノム間での保存遺伝子の双方向ベストヒット解析を組み合わせた手法を用いて,南極コケ坊主由来のSphingomonas属細菌2種とその近縁種に対する水平伝播遺伝子候補の検出を行った.その結果,南極株は他の大陸起源の近縁種に比べ,ゲノム上での水平伝播遺伝子の割合が高く,水平伝播遺伝子の由来は南極株2種で大きく異なることが示唆された.水平伝播候補遺伝子の機能を調べたところ,細胞壁あるいは細胞膜の機能に関連する遺伝子が両方で確認された.南極由来のSphingomonas属2種の系統樹上での位置関係はともに異なるブランチを形成していたが,水平伝播で獲得した遺伝子の機能やアミノ酸組成の変化など多くの共通した特徴が見られ,各南極株が南極環境に適応するプロセスにおいて収斂進化の可能性が示唆された.これらの成果を,Frontiers in Microbiologyにて論文発表を行った.開発した水平伝播候補遺伝子検出ワークフローを研究代表者のHPにて,ソフトウェアとして公開した.
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