研究実績の概要 |
自然免疫系で働くタンパク質STINGの活性化機構の解明は、抗がん剤やワクチンの免疫賦活化剤などの創薬のみならず、STINGの過剰活性化による自己免疫疾患や加齢に伴う細胞の癌化の発症機構解明にも有用な情報を与える。 STINGは細胞が感染した際に生成されるリガンドを結合することにより、そのシグナルを下流に伝えインターフェロンβ産生を促す。しかし近年、リガンド結合ドメインのアミノ酸変異によりリガンド非結合状態で恒常的なインターフェロンβ産生が生じ、重篤な自己免疫疾患を導くことが明らかにされた。アミノ酸変異によりリガンド結合部位を含むリガンド結合ドメインの立体構造は大きく変化しないことから、変異のシグナルは主にダイナミクスの変化によって下流に伝達されると推測される。本研究では、リガンド結合や変異導入によるタンパク質のダイナミクス変化の解析に基づき、STINGの恒常的活性化のメカニズム解明を目指す。 2022年度はこれまでに開発を行った、アミノ酸変異やリガンド結合が導くタンパク質の微細な揺らぎの変化を抽出する手法(Tsuchiya et al, JCIM, 2019; Tsuchiya et al, SciRep, 2021)をSTING系へ応用するため、電子顕微鏡解析によって決定された最新の構造データを利用し、野生型、リガンド結合型および変異体のヒトSTING全原子モデル(膜貫通領域を含む)を構築した。また、このヒトSTINGモデルを利用し、下流のタンパク質との相互作用のためのオリゴマー形成機構を検討した。具体的には、膜貫通領域とリガンド結合ドメインをつなぐコネクター領域の構造変化およびリガンド結合ドメインの回転等を調査した。
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