研究課題/領域番号 |
17K00409
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研究機関 | 宮崎大学 |
研究代表者 |
湯井 敏文 宮崎大学, 工学部, 教授 (50230610)
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研究分担者 |
宇都 卓也 鹿児島大学, 理工学研究科, 協力研究員 (60749084)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 糖結合モジュール / 糖鎖基質認識 / 分子シミュレーション |
研究実績の概要 |
孤立分子鎖または結晶状態のセルロースやキチン糖鎖基質と可逆的(非触媒的)に結合する糖結合モジュール(CBM)タンパク質を対象とした。CBMは触媒能力を持たないが、触媒ドメインの基質に対するアクセシビリティを向上させる。酵素本体(触媒ドメイン)に基質が活性部位に結合した複合体の場合、結晶構造解析対象となることが多いが、可逆的かつ多様な結合状態が予想されるCBM-糖鎖複合体の結晶構造解析研究例は限られている。本研究は、コンピュータによる分子シミュレーションを手段として、CBMの基質認識機構を明らかにすることを目的とした。 CBMは糖鎖に対する結合様式によって、主に不溶・結晶状態の糖鎖に対してCBM表面が認識する様式(Type A)、CBM表面の浅いクレフト上で孤立糖鎖を認識する様式(Type B)、および糖1~2残基程度の糖鎖部分に対してCBM表面が認識する様式(Type C)に分類される。これらの三つの結合様式に対応する複数のCBMをモデル系として選択し、それらCBMと糖鎖基質の複合体構造モデル群を網羅的に求める。得られた複合体モデル群のシミュレーション計算を実施し、基質認識に関わる熱力学量や立体構造を解析する。さらに、CBM表面に対する糖鎖基質の結合・脱離過程や結合クレフト上の基質移動過程等のより大きな構造変化を伴う基質認識過程を、分子シミュレーション計算によって再現する。以上の知見から、CBMが示す可逆的かつ多様な糖鎖基質認識機構の空間的・時間的な全体像を明らかにする。 一般に、糖加水分解酵素(セルラーゼ、キチナーゼ等)は、CBMを失うと触媒活性を大きく低下する。本研究の成果は、酵素全体の反応機構に理解に貢献することに加え、加水分解活性や基質認識特性を制御する変異CBM設計へと展開することが期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1) 複合体構造の解析 Type A CBMに分類される、Trichoderma reeseiが産生するセルビオヒドロラーゼCel7AのCBMは3つのチロシン残基によってセルロース結晶表面を認識する。以前に決定されたCel7A CBM-セルロース結晶複合体モデルを用いた継続研究として、セルロースIaまたはセルロースIII1結晶面の複合体構造における基質認識挙動を評価した。CBMはIII1結晶面に対して、本来の基質であるIa結晶面とほぼ同程度の相互作用を与えた。Ia結晶面と比べてCBMはIII1結晶面に対してより多くのアミノ酸が基質認識に関与し、それらのアミノ酸に相互作用が分散して結晶面を認識した。 2)基質吸着シミュレーション CBMの周囲に1分子または糖鎖基質を任意に配置し、CBM-基質水溶液シミュレーション計算を実施し、CBM周囲の基質の分布状態を評価した。 Type Aに分類されるPyrococcus furiosus由来キチナーゼのCBMに、基質キチン糖鎖溶液中におけるCBM表面の糖鎖密度分布を解析した。基質認識Trp残基が3個直線的に並ぶ表面に高密度分布が見られた。いくつかの計算において、基質認識アミノ酸に沿って糖鎖が移動し、その後、糖鎖が解離する可逆的な結合・解離挙動を観察した。 Hevea brasiliensis由来のヘベインペプチドはType Cに分類され、3個のTrp残基がキチン糖鎖と結合する複合体立体構造がNMR測定によって報告されている。このシミュレーション計算では、キチン糖鎖が基質認識Trp残基に不可逆的に結合した。糖鎖結合方向は、NMR構造の方向と一致したが、結合エネルギーが最大となった複合体構造は、NMR構造と比べて非還元末端方向に糖鎖が1残基分移動した結合様式であった。
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今後の研究の推進方策 |
1)基質吸着シミュレーション計算 平成29年度に中断していたTrichoderma reesei Cel7A CBMを対象とした基質吸着シミュレーション計算を平成30年度より再開する。さらに、Pyrococcus furiosus由来キチナーゼCBMのシミュレーション計算を継続し、平成29年度に観察されたCBM表面を基質糖鎖が移動する現象の再現性を確認し、その動作メカニズムを詳細に解析する。Hevea brasiliensis由来ヘベインのシミュレーション計算については、複合体のNMR構造予測が可能であることを確認したため、基質認識アミノ酸を含めた変異導入を来ない、基質認識挙動の変化を評価する。 2)自由エネルギー計算 Type B CBMに相当するClostridium cellulovans とClostridium josuiエンドグルカナーゼCBMの糖鎖複合体CBMを対象とする。報告されている複合体結晶構造をもとに、基質認識クレフト上の糖鎖移動経路を推定し、設定した反応経路に沿って基質に仮想的な外力を印加するsteered dynamics simulation(SMD)法、またはアンブレラサンプリング法を適用し、自由エネルギー変化量と経路上の複合体構造の詳細について解析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
金額が少額であったため、当該金額もとで適当な使途がなかった。
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