研究課題/領域番号 |
17K00412
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研究機関 | 愛知県立大学 |
研究代表者 |
神山 斉己 愛知県立大学, 情報科学部, 教授 (70233963)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 血管 / FMD / 血管内皮細胞 / 数理モデル / シミュレーション解析 |
研究実績の概要 |
動脈硬化症初期には血管の内膜を構成する血管内皮細胞の機能低下が起こると考えられる。従って、血管内皮機能評価は、動脈硬化の早期診断並びに予防の観点から重要である。非侵襲的な血管内皮機能の評価方法として血流依存性血管拡張反応検査(FMD検査)がある。しかし、この検査は駆血前後の動脈径の大きさを計測しているのみであり、血管内皮機能のどの部分に障害が発生しているかなど、内部の生理メカニズムを理解することは困難である。本研究は、こうした問題に対し、血管を構成する細胞の様々な特性に基づいたリアリスティックな数理モデルを構築し、シミュレーション解析によって血管の内部を可視化することを目指すものである。 FMD検査時の血管物性を測定する実験では、血管弾性率が血管拡張時に安静状態よりも低下することが示されている。血流は血管の物理的特性の影響を受けることから、血流状態を連続的に計測することで、血流状態変化から血管の物理的特性を推定できることが示唆される。超音波ドップラー法による血流計測は、非侵襲的で簡易であり、FMD検査よりも容易に内皮機能を評価できる可能性がある。しかし、FMD反応に伴う血管物性の連続的変化が血流動態に及ぼす影響は明らかではない。そこで、血流・血管壁動態を同時にシミュレーション可能な数理モデルを構築し、FMD反応が血流に及ぼす影響を解析した。その結果、モデルを用いることで、直接計測が困難な血管パラメータを推定し、FMD検査時の動脈系の挙動を再現することに成功した。FMD反応時の血流波形シミュレーションの結果、血管壁動態の変化が血流波形の形状に影響を及ぼすことが予測され、超音波ドップラー法で実証した。今後、構築した数理モデルの精緻化を行い、FMD反応に伴う個々の生理機構の反応や変化の様子の可視化等、血流変化のダイナミックスを解明できる手法の開発を進める。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、血管内皮機能を解析するための技術開発を行っている。そのため、血管系について精密な数理モデルの開発とその評価を行っている。平成29年度は、プロトタイプとなる血管系の数理モデルを用いて、FMD検査データを分析する手法を確立することができた。さらに、FMD検査ほど、実験を行う測定者の技術レベルが要求されない超音波血流検査から、血管内部の状態を推定し得る手法を提案でき、その妥当性を実証することもできた。血管内皮細胞のより精密なモデル化についても、そのための実験環境の整備も順調に進んでおり、研究は順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
血管の数理モデリングには、血管内皮細胞に存在する血流センシングの仕組みとそれに続く血管内皮細胞及び血管平滑筋細胞の生理機構のモデル化が必要である。従って、今後も引き続き、これらの細胞のモデルの精密化を進めていく。モデル構築にあたっては、細胞の生理特性や機械的特性を明らかにする必要もあることから、培養細胞を用いた実験も行う。こうした細胞レベルの研究と共に、FMD計測や血流計測等の非侵襲的な計測と細胞レベルの特性を結びつけるため、計測データから生理・物理特性を数理的に推定するための手法の開発も進めていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
細胞レベルの研究を行うため、その実験補助のアルバイトを雇用予定であった。しかし、顕微鏡等の大学内の研究基本設備の更新があり、実験を継続的に行えない時期が生じた。そのため、アルバイトの雇用をとりやめ、研究代表者が必要な作業を行うことにした。次年度使用額は実験補助及び培養細胞の購入費用としてあてる予定である。
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