本研究では、ミツバチのダンスコミュニケーションに使用されている空気の振動刺激を受容、処理する神経構造及び処理機構を実際の生理、形態実験データに基づき解析を進めてきた。まずは、触角からの投射を受けている介在ニューロン群を探索し、その形態に関する数理モデルを構築・評価及び電気的応答特性の比較手法を確立した。これらの結果に基づき、振動刺激の時間長の検出において抑制性ニューロンDL-Int-1が重要な働きを果たしていることを予測した。この過程において、複雑な形態を持つニューロンの形状を共焦点レーザ走査型顕微鏡画像から抽出する手法、及び、得られたニューロン形態モデルを定量的に比較する方法を開発した。 今年度は採餌バチにおけるこのニューロンの形態及び電気的応答特性が、羽化直後の個体に比べて、神経回路の応答を強化するように適応していることを明らかにした。また、触角への振動刺激情報処理の一次中枢である背側葉に注目した標準脳を用いて、介在ニューロンの形態モデルを登録(レジストレーション)を進めた。このレジストレーション結果から、形態情報に基づく神経回路モデルの元になる結果が得られた。神経回路においては、形態的にはシナプス結合しているように見えても機能的にはつながっていない可能性もあり、また、結合の強度についても形態情報からだけで決定するには無理がある。一連の研究成果により、この回路モデルを初期値として、実際の細胞応答特性を考慮して細胞間の機能的なシナプス結合を求め、振動刺激情報を処理している一次中枢の局所神経回路構造を解明していく礎を築くことができた。
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