アルツハイマー病の初期過程では、ラフト環境で膜タンパク質であるβ切断酵素がアミロイド前駆体タンパク質(APP)をβ部位で切断し、その後、ガンマ切断酵素がγ部位で切断することで、アミロイドベータペプチドが生成される。このアミロイドβペプチドが繊維化し、老人斑形成につながるが、β切断酵素とAPPの結合がどのように行われるのかの詳細はわかっていなかった。そこで、本研究では、生体膜近傍の動力学に絞って、β切断酵素の膜貫通部位とAPPの膜貫通部位との相互作用について調べた。 まず、β切断酵素の膜貫通部位の構造が解けていなかったので、implicit solvent/membrane modelを用いたレプリカ交換分子動力学法(REMD)を使って構造予測した。その後、その予測構造を粗視化し、ラフト環境を再現したグリセロリン脂質・スフィンゴ脂質・コレステロール混合膜でβ切断酵素の膜貫通部位と脂質分子との相互作用について調べた。その結果、コレステロールとの相互作用が強いことがわかった。また、コレステロールとの相互作用部位も明らかにした。次に、ラフト環境下において、β切断酵素の膜貫通部位とAPPの膜貫通部位との結合と結合ダイナミクスについて調べた。結合部位が明らかになり、APPとのヘテロ二量体形成においてコレステロールとスフィンゴ脂質が媒介する事がわかった。これにて、生体膜中でのAPPとβ切断酵素の結合過程と相互作用が明らかになった。 更に、アルツハイマー病が起きない通常の場合、β切断酵素の代わりにα切断酵素がAPPのα部位を切断する。α切断酵素の膜貫通部位の構造予測をし、その構造を用いて、脂質分子との相互作用及びAPPとの相互作用についても調べ明らかにした。 本申請研究で予定していた全ての研究を実施する事ができた。また、これらの成果について複数の発表を行い、現在論文を執筆中である。
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