研究課題/領域番号 |
17K00436
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
古川 宏 筑波大学, システム情報系, 准教授 (90311597)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 歩行者ナビゲーション / 高度道路交通システム / 高齢者 / 減災 / ユーザインタフェース / 状況適応 |
研究実績の概要 |
利用者の不安や迷いを軽減する歩行者ナビの実現に向け、ランドマークや道路条件の有用性・コストに対する定量的評価に基づいた経路探索法を開発している。本研究の目的は、道路環境の変化に迅速に対応可能なモデル構築手法の開発と、ユーザ個々の身体的・心的負荷に適応可能とするモデル調整手法の開発である。本年度は、ランドマークの物理的属性と利用者の認知的特性間の関係性の解明、地図更新に対応した経路評価コストモデルの構築手法の開発を実施した。また、実地実験に用いる歩行者ナビ・プロトタイプシステムの構築に取り組んだ。 1.環境変化に対応した新規モデルの構築・追加手法の開発:多様なランドマークや道路条件を対象とした実験参加者(青年~高齢者)によるランドマーク発見評価実験より、ランドマークの物理的属性(看板の有無や建物のサイズなど)と利用者の認知的特性間の定量的関係を確認した。実験では広視角動画視聴装置による模擬環境を用いた。関係における非線形性を考慮し、特徴空間を分割した回帰モデルを構築することで、精度向上を実現している。構築した認知容易性評価関数に基づき、新たなランドマークに対するコストモデルを新規に求める手法を構築した。具体的には、ランドマークの物理的属性値を変数とし、コストモデルのパラメータを推定する手法となる。実測データによる定量的評価結果から、構築したモデルは十分な有用性を有することを確認した。成果を、国内シンポジウムおよび国際学会にて発表している。 2.実地実験に用いる歩行者ナビ・プロトタイプシステムの構築:提案手法に基づく歩行者ナビシステムの有効性評価に向け、プロトタイプシステムの構築を進めている。本年度は歩行者ナビ用サーバの構築を対象とし、GPS情報と認知的負荷評価機構からの結果に基づき、経路探索と、リアルタイムでの案内用コンテンツ作成、ナビ用表示画面の提供を行う基本機構を構築した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度実施予定であった「A. 環境変化に対応した新規モデルの構築・追加手法の開発」および「B. 実地実験に用いる歩行者ナビ・プロトタイプシステムの構築」について: (1)Aは予定通り完了した。多様な条件下における認知的実験を実施することにより、ランドマークの物理的属性と利用者の認知的特性間の関係性の解明、そして地図更新に対応した経路評価コストモデルの構築手法の開発を実施した。 (2)Bは3部からなり、本年度予定の“歩行者ナビ用サーバ”の構築に加え、来年度予定の「GISシステムに基づく認知的負荷評価処理システム」および「ユーザインタフェースとなる携帯端末」の構築にも着手し、実際にユーザが歩行者ナビサービスを体験し得る基本機能を利用可能としている。
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今後の研究の推進方策 |
1.「B. 実地実験に用いる歩行者ナビ・プロトタイプシステムの構築」(H30):前年度から継続して実施する。全ノードにおける位置特定タスクの困難さを評価する認知的負荷評価処理システムの構築、ユーザインタフェースとなる携帯端末画面の構築を行う。後者では、経路誘導に適した情報提示、経路の主観的評価を入力するインタフェースを構築する。 2.「C. 個別ユーザへの適応のためのモデル調整手法」 i)経路評価用インタフェースとコストモデル調整機構の構築(H30):提供経路に対する個々の利用者の評価・要求情報を取得する機構、そして取得情報により個々に特化したコストモデルへと調整する機構を設計する。前者は、“利用者自ら報告するインタフェース画面”と“提供経路と実際の歩行経路と差の収集機能”からなる。後者の機構では、取得した各ユーザの情報を用いて、位地特定のしやすさ、身体的負荷、安心感、嗜好などの各評価関数のパラメータを変更することで、コストモデルの個人特化を実現する。 ii)プロトタイプシステムを用いた長期利用実験による機構の評価と改善(H31):モデル調整機構を組み込んだプロトタイプによる長期の利用実験を実施することで、各機構の有用性と問題点の確認、問題の改善のプロセスを通して手法を開発する。本実験においても、実験参加者として、青年・成人層に加え高齢者を採用することで、多様な利用者を対象にした検討とする。 3.「D. 実用システムに必要となる基本仕様の策定」(H31):利用者の不安や迷いを軽減するナビ支援サービスを実現に向け、歩行者ナビシステムの構築過程で生じた技術的課題、実験参加者による利用の観測結果、および実験参加者による主観的評価結果から、実用システムに要求される技術的要件や解決すべき技術課題を確認し、基本となる仕様の策定を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)本年度実施した「A. 環境変化に対応した新規モデルの構築・追加手法の開発」において、良質データの取得を目指して、より実際に近い模擬環境を実現するため、実験参加者による360度の自由視野を提供可能とする動画視聴システムを購入・構築し、実験に使用した。このため、「B. 実地実験に用いる歩行者ナビ・プロトタイプシステムの構築」におけるサーバ・マシンの購入をH30年度に延期し、この予算の一部を用いての導入とした。本年度におけるサーバ構築は基礎部分のみであり、必要な能力は限定的であることから、既存のコンピュータを用いて構築を実施している。 (使用計画)「B. 実地実験に用いる歩行者ナビ・プロトタイプシステムの構築」の完成に向け、必要な能力を有するサーバ・マシンをH30年度において購入する。この際、予算の不足分については、報告者の学内研究費より充足するため、導入に何ら問題はない。
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