研究課題/領域番号 |
17K00448
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
芳鐘 冬樹 筑波大学, 図書館情報メディア系, 教授 (30353428)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 図書館情報学 / 情報図書館学 / 引用分析 / ネットワーク分析 / 科学社会学 / 科学計量学 / 計量情報学 / 計量書誌学 |
研究実績の概要 |
分野横断的なサイエンスリンケージ(引用関係)をもつ論文と特許の特性に関する知見を得ることを目的に,「分野横断性」について定義し,特許や論文の特徴を観察するための観点・操作的定義・指標を具体化した前年度の研究結果を踏まえて,平成30年度は,それらの指標を実際に用いて,サイエンスリンケージに関わる各分野の特徴を明らかにした。具体的には,引用元論文を書誌同定する際の問題点を洗い出しつつ,引用元論文の分野横断性の傾向をジニ係数等に基づいて計測した。また,引用年齢(引用元論文の新しさ)の傾向も調査した。 国立情報学研究所のテストコレクションNTCIR-8,および,DVD-ROM版日本国公開特許公報を特許の情報源に,Web of Science,および,CiNii Articlesを論文の情報源に用いた。出願番号や公開番号で参照・引用される特許とは異なり,論文等の非特許引用文献は,しばしば書誌記述が不統一・不完全であり,そのため,書誌同定できず,分野(キーワードや分類)を調べられないケースも多かった。例えば,a) 書誌事項の欠落:掲載誌名や論文の標題が記載されていない等,b) 表記のゆれ:掲載誌名が略記されていたり,英名がカタカナ表記されている等のケースが多かった他,誤字も多数観察された。分析結果から得られた知見の主な例を以下に挙げる。 (1) 特許が引用する論文の分野には,「学際的化学」等の学際的分野が多く含まれている。 (2) 化学・冶金分野の特許が「応用物理学」の論文を引用している等,分野横断的な引用が多数観察される。 (3) 生活必需品分野,化学・冶金分野,物理学分野の特許は,幅広い分野から論文を引用している。 (4) 電気分野の特許は,特定の分野からの引用が偏って多い。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成30年度の計画として挙げている(1)(2)(3)について,おおむね予定どおり進められたため。 (1) 特許・論文について,引用ネットワークの広がりを指標で測る。それらの値に基づいてサイエンスリンケージの分野横断性が高い特許分野と低い特許分野とを比べ,前者の特徴を調査する。 (2) 特許・論文について,廃れの速さを引用年齢を測る。特許分野ごとに,引用年齢とサイエンスリンケージの分野横断性との関連を調査する。 (3) (1)(2)で得られた結果に基づき,分野横断的なサイエンスリンケージをもつ特許・論文の特性に関して,各分野の傾向を整理する。また,その傾向の背後にある要因について検討する。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度である平成31年度は,指標の標本量依存性を考慮した枠組みを導入し,前年度までの分析結果を検証する。 (1) 本研究の指標が基礎を置く,論文・特許の被引用数・キーワードの出現頻度などのデータは,低頻度のソース(数回しか引用されない論文など)が大部分を占める性質から,指標の標本量依存性が問題になり,分析結果の解釈において注意を払う必要がある。特に,特許は,被引用数0が非常に多く,論文よりもさらに偏った分布をとる。そこで,無作為部分標本抽出のモンテカルロ実験,および補間・補外の理論に基づいて指標の値の変化を推測し,本研究で直接扱ったデータの範囲を越えて,得られた結果を一般化できるか検証する。 (2) (1)の検証結果によっては,サイエンスリンケージの分野横断性との関連の解釈が困難な可能性がある。その場合の対応として,特許の出願者引用だけでなく,審査官引用も考慮に入れた追加分析を行う。 (3) 最後に,研究の総括を行い,全体成果をまとめる。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成30年度の研究遂行においては,計算アルゴリズムの効率化を工夫し,データ処理の負担を軽減したため,データ処理用コンピュータとして,交付申請時に予定していた金額よりも安価なコンピュータを購入して研究に用いた。そのことなどが理由で,次年度使用額が計上されている。
この次年度使用額は,新たなコンピュータの購入などに充て,ビッグ・データ(約1,000万件の特許出願のフルテキストなど)を対象にした,より高度な分析のために用いる。その他の事項については,当初の交付申請時の計画どおり,研究資料,外国語論文の校閲,学会参加の旅費などに使用する。
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