特許と学術論文の引用関係,いわゆるサイエンスリンケージに関して,分野横断性の実態を明らかにすることを目的に,(1) 「分野横断性」について定義し,特許や論文の特徴を観察するための観点・操作的定義・指標を具体化し,そして,(2) それらの指標を用いてサイエンスリンケージに関わる各分野の特徴を明らかにした前年度までの研究成果を踏まえ,最終年度である令和元年度は,引用という現象について,その背後にある動機などの点から,さらに詳細な分析を行った。 Web of Scienceを情報源として,30編の原著論文中の引用文および被引用文献を分析に用いた。その結果,例えば,「明示的な肯定」「非明示的な肯定」(評価的観点),「おざなり」(意義的観点),「道標」「サポート」(機能的観点),「考察」「はじめに」(位置的観点)に該当する引用が多いことが明らかになった。また,複数の観点のすり合わせをしたところ,「部分肯定・否定」「否定・反対」(評価的観点)に該当する引用箇所と,「愛想」(機能的観点)に該当する引用箇所には,重なりが多く見られることなども明らかになった。 さらに,分析結果の一般化可能性についても検討した。本研究の指標が基礎を置く,学術論文・特許の被引用数・キーワードの出現頻度などのデータは,低頻度のソース(数回しか引用されない論文など)が大部分を占める性質から,指標の標本量依存性が問題になり,分析結果の解釈において注意を払う必要がある。特に,特許は,被引用数0が非常に多く,学術論文よりもさらに偏った分布をとる。そこで,無作為部分標本抽出のモンテカルロ実験,および補間・補外の理論に基づいて指標の値の変化を推測し,結果の一般化が可能な範囲と限界を確認する方法を構築した。
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