研究課題/領域番号 |
17K00458
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研究機関 | 神戸女子大学 |
研究代表者 |
久野 和子 神戸女子大学, 文学部, 准教授 (80635524)
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研究分担者 |
川崎 良孝 京都大学, 教育学研究科, 名誉教授 (80149517)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 場としての図書館 / 公共空間 / 学校図書館 / 公共図書館 / 第三の場 / 社会関係資本 / フィンランド |
研究実績の概要 |
本研究は、人びとの社会的孤立、貧困、差別、格差拡大など多くの課題がある現代日本社会において、図書館が、自由で多様な出会いのある「公共空間」として、社会関係資本(つながり)を効果的に醸成し、人びとの学びや生活を支え、豊かにしうることを明らかにすることを研究目的とし、現場でのフィールドワークに基づいて理論的、実証的な検討・考察をおこなっている。本研究目的を達成するために2つの項目を設定し、令和2年度はコロナ禍によりフィールドワーク調査は不可能だったものの、理論研究を中心とした研究成果を以下に示すとおり達成することができた。 (1)「第三の場」としての公共図書館:初年度より 令和1年度まで、台湾、韓国、フィンランドなどの公共図書館や国内の先進的な公共図書館を視察し、実証的な研究成果を発表できた。しかし、令和2年度は、コロナ禍や政情不安のため、予定していた国内外でのフィールドワークを実施することができなかった。したがって、令和2年度は理論研究に集中し、研究分担者・協力者らと図書館研究史についての研究書を刊行した。さらに、講演会、学会発表等によって社会への還元を図った。 (2)良き「居場所」(=第三の場)としての学校図書館: 学校内の開かれた「公共空間」である学校図書館が、どこにも「居場所」のない児童生徒の良き居場所(=「第三の場」)となりうること、またその意義について、実際に学校図書館をフィールドワークし、理論的、実証的な考察・検討をおこなってきた。令和1年度末に刊行した単著の研究書『「第三の場」としての学校図書館:多様な「学び」「文化」「つながり」の共創』は、令和2年度には、2つの主要な学会誌における書評で高評価を受け、日本の学校図書館研究の進展に貢献し、新たな研究の方向性を示すことができたと考えられる。また、活動理論学会や教育委員会の研修会等において研究発表や講演をおこなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究では実証研究をおこなうため、多くの国内外での視察やフィールドワークを予定していたが、令和1年度の年度末から、コロナ禍で国内外問わずどこにも行くことができなかった。また、研究協力者や他の研究者らとの会合や打ち合わせ、研究会、学会、図書館視察も新型コロナ禍のためすべてキャンセルになった(一部はZoomで実施)。そのため、一年目の介護による研究中断の遅れを十分に取り戻すことができなかった。 このように、視察やフィールドワークの研究計画・予定の遂行については「遅れている」ものの、令和2年度はこれまでの研究成果に基づき、論文の執筆、オンライン学会発表をおこなうと共に、共著の研究書を刊行し、一定程度の研究実績を達成することができたので、進捗状況は「やや遅れている」が妥当と考えた。
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今後の研究の推進方策 |
令和2年度の年度末に研究分担者・協力者らと論文を執筆し、令和3年6月末に共著の研究書を松籟社から刊行予定である。また、当初は主にアメリカ、北欧の図書館について研究調査を実施する計画であったが、研究協力者らが北欧について、研究分担者の川崎がアメリカについて研究調査を積極的に進めているので、研究代表者の久野は日本やアジアの公共図書館、学校図書館に目を向けることを計画していた。しかし、コロナ禍のため、引き続き実施困難が予測されるので、理論的研究を中心に進めることを現在あらたに計画しており、研究分担者・協力者らとアメリカの研究書と北欧の最新の研究論文集の翻訳にとりかかっている。日本の図書館界でまだ知られていない最新の理論や最先端の研究を紹介し、日本の図書館研究の進展に寄与したいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和1年度の年度末以降、フィールドワーク予定であった韓国や東アジアに政情不安定とコロナ禍のため行くことがかなわなかった。そのため、研究費の次年度使用が生じてしまった。実証研究や調査は実施できなかったが、これまでの研究成果をまとめ、研究書や学会発表等における発表を通して、研究実績の構築は達成することができた。 令和2年度は国内外の視察について予定通りにできず、実証研究や調査が進まなかったので、今後コロナ禍が収束した際には精力的に国内、海外の図書館への視察・フィールドワーク、研究打ち合わせ、研究会をおこないたい。それまでは研究分担者・協力者らとオンラインで連絡を取り合い、論文執筆と翻訳とで本研究を積極的かつ確実に進めていきたい。 翻訳については、アメリカの学校図書館史についての研究書と北欧の先端的な研究論文集を研究分担者・協力者らと共同で翻訳し、刊行する予定である。
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