研究課題/領域番号 |
17K00458
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研究機関 | 神戸女子大学 |
研究代表者 |
久野 和子 神戸女子大学, 文学部, 准教授 (80635524)
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研究分担者 |
川崎 良孝 京都大学, 教育学研究科, 名誉教授 (80149517)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 場としての図書館 / 公共空間 / 学校図書館 / 公共図書館 / 第三の場 / 社会関係資本 / 居場所 |
研究実績の概要 |
本研究は、社会的孤立、貧困、差別など多くの課題がある現代日本社会において、図書館が自由で多様な出会いのある「公共空間」として、社会関係資本(つながり)を効果的に醸成し、人びとの学びや生活を支え、豊かにしうることを明らかにすることを研究目的とする。したがって、現場でのフィールドワーク に基づいて理論的、実証的な検討・考察をおこなうことが本研究の活動の中心である。しかし、令和3年度はコロナ禍によりフィールドワーク調査はほぼできず、当初期待された研究実績は得られなかった。だが、その一方で、文献による理論研究に力を入れ、ある程度の研究実績をあげることができた。 (1)「第三の場」としての公共図書館:物理的な場所としての公共図書館は、コロナ禍ではその機能を発揮することが困難であった。しかし、感染拡大が落ち着くと、感染予防対策のもと開館できた。利用者が、家の閉じた空間から外に出て、開かれた公共空間において、様々な人々を見たり、他者から見られたりする経験を久しぶりにもてたことは、あらためてアーレントの「現れの空間」「公的領域」としての図書館の機能を再認識させた。そこからさらに考察を深め、公共空間としての公共図書館の機能について論文にまとめ、研究協力者や他の研究者らと研究論文集『図書館の社会的機能と役割』を松籟社から刊行した。 (2)良き「居場所」としての学校図書館: 国内外で計画していたフィールドワークは実施できなかったが、新たな協力先を近隣に開拓できた。当該学校図書館は教室に居づらい生徒や生活課題を抱える生徒の居場所となっており、教職員や地域住民の協力と支援のもと、様々なケアと居場所づくりを行っている。コロナ禍においては、そうした学校図書館の機能と役割はますますその重要性と必要性を増していることを講演会や記事で事例紹介することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
理由 本研究では実証研究をおこなうため、多くの国内外での視察やフィールドワークを予定していたが、令和1年度の年度末から現在に至るまで、コロナ禍で国内外問わず現場で調査することができなかった。研究協力者や他の研究者らとの会合や打ち合わせ、研究会、学会、図書館視察も新型コロナ禍のためすべてキャンセルになっ た(一部はZoomで実施)。そのため、一年目の介護による研究中断の遅れを十分に取り戻すことが引き続きできなかった。したがって、令和3年度は「遅れている」が妥当と考えた。ただし、これまでの研究成果に基づき、共著の研究書を刊行し、講演、記事など、一定程度の研究実績を達成することはできた。
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今後の研究の推進方策 |
コロナ禍のため、引き続きフィールドワークは実施困難が予測されるので、理論的研究を中心に進める。研究分担者・協力者らとアメリカの研究書と北欧の最新の研究論文集の翻訳を鋭意進めている。日本の図書館界においてまだ知られていない最新の理論や最先端の研究を紹介し、日本の図書館研究の進展に寄与したいと考えている。 ノルウェーの先端的な学術論文集を現在、研究分担者・協力者と翻訳し終えており、近々刊行予定である。 また、当初の活動計画を変更し、新たなフィールドワーク先を近隣に開拓できたので、コロナ禍がある程度落ち着いたら本格的にフィールドワークを始動したい。学校内外に開かれた「公共空間」そして「居場所」としての学校図書館について、実証的な研究論文にまとめることを計画している。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和1年度の年度末以降現在まで引き続き、フィールドワーク予定であった韓国や東アジアに政情不安定とコロナ禍のため行くことがかなわなかった。また、国内の視察とフィールドワーク調査についても予定通りにできず、実証研究や調査が進まなかったので、研究費の次年度使用が生じてしまった。 今後コロナ禍がある程度落ち着いてきたら、精力的に新しい開拓先の近隣の学校図書館へのフィールドワークに取り組みたい。それまでは研究分担者・協力者らとオンラインで連絡を取り合い、理論研究を中心に進め、論文執筆と翻訳とで本研究を確実に進めていきたい。 翻訳については、アメリカの学校図書館史についての研究書と北欧の先端的な研究論文集を研究分担者・協力者らと共同で翻訳し、近々刊行する予定である。 そのために、校正やデータ入力を担当する研究補助者が必要となるので、人件費と情報機器の物品費に経費を使用する予定である。
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