本研究は、書写・運筆練習やスポーツ・ダンスの運動学習、熟練を要する機器操作の習得過程において、時々刻々変化する身体動作から学習の進展度合いを可視化するための技術の開発を目的として実施された。同期タッピング課題を利用した従来研究の知見(ヒトの身体動作の制御は認知的制御と身体的制御とに2重化されている)を応用し、身体動作の学習過程を前者の制御系から後者の制御系への遷移過程と仮定して研究は展開された。この身体動作に関与する制御系の違いは、当該身体動作が反復的であれば(書写・運筆やスポーツ・ダンスにおける反復練習は習得過程には付き物となる練習法である)、その運動の基調を成す変動に対して相応かつ特徴的に逸脱する、すなわち運動の基調からのズレの傾向の違いとして捉えられる。先行研究の知見から前者優位であれば、その運動はより白色ノイズ的にゆらぎ、後者が優勢になると、観測されるゆらぎは白色ノイズから相応な逸脱を持ってゆらぐことになる。この研究では、この身体動作のゆらぎの変化を利用して運動学習の進展状況を定量化、可視化して、運動学習の効果を総合評価するための学習支援について調査、検討を行った。本研究において取り上げられた身体動作は、ペンタブレッド上の運筆動作、触刺激提示を伴うトレッドミル上での歩行動作、スマートフォン操作の運指動作であり、それぞれの動作において同期タッピングとの組み合わせによる二重課題法が考案された。本研究は身体動作として視覚的にその動きが観察される運動に関して展開されたものであったが、結果として、連続する2つの身体動作の合間に挿入される身体動作の一時的な停止状態「間」に関するゆらぎは未検討であった。今後は、「間」を含む身体動作全般をフォローする運動学習支援システム構築を目的として、「間」を構造化・差別化し、「間」を伝えるための要素技術を創出する方向へ展開していく。
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