研究課題/領域番号 |
17K00496
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
嶌田 聡 日本大学, 工学部, 教授 (90713123)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 技能伝承 / 集合知 / 経験学習 / ソーシャルネットワークサービス / オープンラーニング / 計画的行動理論 |
研究実績の概要 |
まず、企業におけるOJT(On the Job Training)でのマネージャー育成でよく用いられている経験学習の手法をベースにした登山者の主体的な学びを支援する方法を提案した。提案方法は、他人の登山におけるヒヤリハット体験記事を教材として共有し、それを閲覧することによる疑似体験を行う。その疑似体験を振り返る省察、その結果を一般化して登山の知識へと導く概念化、他人との意見交換や登山活動での実践による検証の順に検討しレポートを作成することで学習する。作成するレポートのテンプレートを提供し、これらのステップを容易に行えるようにした。省察の支援では3×4要因分析表を導入した。これは登山活動の工程を計画時/出発直前/行動中の3つ、リスクマネジメント対象を人的要因/装備/登山コース/山の状況の4つに分割した表である。この表を提示し、要因分析の観点を明示した。 次に、提案方法を実装した実験サイトを構築し、評価実験を行った。ヒヤリハット体験記事は、登山コミュニティサイトでのWebアンケートにより305件を収集し、登山概要やヒヤリハットの種別、発生理由、解決手段などのメタデータを追加して実験サイトに登録した。登山者30人による評価の結果、3×4分析表の効果、および実験サイトで学ぶことで発想の拡大や登山の実践的知識の獲得が行えることを確認した。 また、登山の学びで検討すべき項目を明確化するためにリスク対応を行うときの行動モデルを検討した。計画的行動理論に基づいて行動モデルの仮説を設定して質問項目を設計し、ヒヤリハット体験を経験した267人の登山者に対して調査を行った。調査で収集したデータの統計分析により、3つの要因と3つのリスク対策行動、及びそれらの関係(寄与率)を表した行動モデルを導出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ヒヤリハット体験データベースの構築については、インターネット上に流通している登山報告記事からヒヤリハット体験を含む記事の自動収集を予定していたが、登山者コミュニティの強力な協調行動を活用することで教材として活用できる有効な記事を300件以上収集することができた。 ヒヤリハット体験記事からの学習支援システムについては経験学習をベースにした学習方法を提案し、実験サイトを構築した。このサイトではヒヤリハット体験記事を公開し、利用者が関心のある体験記事を選定して、それに対する学習レポートを作成する機能を提供している。本機能を活用して登山者30名が合計で54件の有益なレポートを作成したことと利用者の主観評価の結果から提案方法により主体的に登山についての学びが行えることを確認した。 ヒヤリハット発生の行動モデルについては、道迷い、気象遭難などのリスク対策行動は登山者の意図に基づいて決定されるので、行った行動と、その行動を行う要因について仮説を設定し、登山者への質問紙調査で仮説を検証した。登山者267人を対象に収集したデータを因子分析と回帰分析を用いて分析することにより、仮説へのマイナーな変更を加えた行動モデルを導出することができた。 学習結果と登山報告記事のマッチングについては以下の理由で自動化の検討は不要となった。ヒヤリハット体験記事を登山者の意図で投稿する方法が現実的であることが分かったので、ヒヤリハット体験記事を投稿するときに登山報告と関連付けて投稿してもらうことが可能である。学習結果はヒヤリハット体験記事に対して付与される。従って、ヒヤリハット体験k時を介して登山報告記事と学習結果を対応づけられる。
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今後の研究の推進方策 |
ヒヤリハット体験記事の集約については、インターネット上に流通している登山報告記事からヒヤリハット体験を含む記事の自動収集を予定していたが、平成29年度の検討で、登山者コミュニティの強力な協調行動を活用することで効率よく有効な記事を収集できることがわかった。今後は、自動収集ではなく登山者の意図で投稿してもらう方法に変更する。有効な記事を持続的に収集できるように既存のメジャーな登山者コミュニティサイトと連携し、ユーザの記事投稿を誘導するインタフェース等の検討を行う。 ユーザの投稿行動によりヒヤリハット体験記事を収集することにするので、学習結果と登山報告記事のマッチングについても自動ではなく、ヒヤリハット体験記事の投稿時に付与されたメタデータでマッチングすることとする。このときに、どのようなメタデータを付与すべきかについて検討する。 登山の実践的な知識の学習方法については、平成29年度の検討で導出したリスク対策行動のモデルを活用して、さらに効果的に学習できる方法へと発展させる。特に、要因分析を支援する3×4分析表については、リスクマネジメント対象の人的要因を細分化すること、行動モデルで導出した3つのリスク対策行動に対しても考察できるように分析表を改善する予定である。 実験サイトについては、ヒヤリハット体験記事の投稿機能と、学習方法の改良版を反映させた機能を追加し、より大規模なユーザ評価実験を実施する。評価実験を確実に行えるように実験サイトを活用した机上講習会を企画し、改善効果の検証と課題抽出を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
【次年度使用が発生した理由】 平成29年度の前半の検討で有力な学習支援方法が明確になったので、実現する機能を絞り込み、範囲を限定して評価することにしたので、構築する実験システムを計画時よりもスリム化した。その結果、実験システム構築や運用向けのハードウエア(PC,ノートPC、記録メディア)で約50万円の減、実験サイト構築のためのシステムカスタマイズ費用で約15万円の減となった。 【使用計画】 平成30年度は、ヒヤリハット体験記事の投稿機能と改善した学習支援機能を実現し、より大規模なユーザ実験を実施するので繰り越した費用は、実験システムの構築に使用する。
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