登山における実践的な知識の獲得と創造を持続的に展開できる方法として、登山者の主体的な学びでも他者のヒヤリハット体験を教材とした経験学習を展開できる方法を確立した。 経験学習での省察の支援については昨年度に次の方法を提案している。他人の体験記事を分析する省察で、どのように分析を行えばよいかの着眼点を明示するために、提案方法では、装備や外的要因を分析する3行3列の要因分析表と登山者自身の内的要因を分析する3行5列の登山者分析表を設計し、提示している。他者のヒヤリハット体験を初級者が分析することは困難であるが、今年度は、初級から中級レベルの登山者でも、これらの分析表を用いることで、他者のヒヤリハット体験を教材とした経験学習での学びの深さとひろがりが拡大することを検証した。 検証実験は以下の通りである。ヒヤリハットに遭遇したときにはどのように対応すべきだったか、未然に防ぐにはどのようにすればよいかを検討する方法を従来手法とし、従来手法と提案方法で作成された分析レポートの質的変化を調査した。登山歴が数年の7名の登山者による2例のヒヤリハット体験記事に対する14件のレポートを収集した。レポートに記載された考察の着目点数と学びの深さレベルとも提案方法の方が増加することを確認した。質問紙調査により,分析表により分析しやすい、考えが明確になりやすい、学ぶべき知識や技術が見つかりやすいの効果が生じ、学びが向上したことを明らかにした。 また、模範的な学習レポートを例示して提案方法による学び方を普及させるために、登山の適切な歩行スペースに関する教材を作成した。作成した教材では、登山活動中の心拍数や重心の加速度の変動を計測し、心拍数が目標値になるよう意識して歩行することが心身の負荷や活動時間の点で有効であることを実測データで示した。この教材を用いた模範的なレポートの作成は今後の課題である。
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