研究課題/領域番号 |
17K00505
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
石田 百合子 熊本大学, 大学院人文社会科学研究部(文), 非常勤講師 (40770855)
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研究分担者 |
松葉 龍一 熊本大学, 教授システム学研究センター, 准教授 (40336227)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 実践体験型教育 / PBL / サービスラーニング / アクティブラーニング / 評価方法 / FD |
研究実績の概要 |
本研究は、PBL(Project-Based Learning)やSL(Service-Learning)に代表される「実践体験型教育」における教員の必要スキルや技能、授業設計・改善ノウハウを抽出し、データベース化することを目的としている。今年度は、授業改善方策システムのFDポータルサイト部分の仕様検討を行った。 まず、研究代表者が高等専門学校にて収集したPBL型授業の各種データ、及び教育関連学会やセミナーで発表されたPBL/SLの実践事例をもとに、教育機関へのICT導入・運用支援を行っている専門家から助言を得て、FDポータルサイトの構造を決定した。具体的には、教員の実践体験型学習の経験年数や、複数教員で担当する場合は役割別で入口を分け、FDポータルサイトで蓄積する情報の分類を定義した。 次に、実践体験型教育の授業運営スキル向上セミナーへの参加、PBLの授業設計や授業運営支援ツールの情報収集をし、FDポータルサイトの構成要素であるリンク集の内容検討をした。 さらに、ALや今年度に収集した事例と関連が深いSTEM教育(科学、数学領域に重点をおいた教育)の海外での取組みとして、独国ルードヴィッヒ・マクシミリアン大学(LMU)の実践事例を訪問調査した。LMUは理工学分野における有数の世界的有名校である。学習と実践を融合(AL)させ即戦力となる人材輩出に主眼をおいたSTEM教育を実践しており、本課題で目指すAL実践手法の分類と事例紹介への協力と継続的な情報交換体制を構築した。また近年、高等教育における理工学教育分野で世界的に注目される教育手法であるDBER(Discipline Based Education Research)の提唱者であるCarl Wieman教授(米国 Stanford大学)の講演及び面談からAL実践のための授業方略やTA教育に関する知見を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度は、当初計画では国内外における高等教育機関の訪問調査、文献調査により、SL/PBL実践に関する知見、ノウハウの蓄積を継続しながら、これら情報の整理を行う予定であった。 しかし、上半期に研究代表者が体調を崩し、機関異動もあったため、しばらく出張を伴う調査は難しい状況にあった。そこで今年度は、研究代表者はこれまで収集した情報をもとに、FDポータルサイトのプロトタイプ開発のためのシステム与件をまとめることに注力した。その代わり、実践体験型学習の場合に調査目的で外部研究者が入る難しさを考慮し、本研究の目的や趣旨を理解のうえ、協力してくれる実践教員の発掘を研究分担者が行った結果、次年度に2名の教員と研究打ち合わせの機会をもてることになった。 またFDポータルサイトのシステム与件についても、教員の経験値や役割から必要となる情報が異なることから、収集する情報の種類や対象者ごとに見せる情報の段階を整理することができた。次年度にデータ収集のために実際の現場へ入る場合の研究計画の作成もスムーズに行うことができるものと思われる。海外の事例調査(米国、独国)では、本課題で進める主体的な学びの実質化の検討への知見・方向性を得ることができた。具体的には、実施形式のみに注力するのではなく、STEM教育では教科の枠組みを超え、基礎学習(理学)とその実践・応用(工学)間における基礎事項の共通性を理解させるための手法、課題設計が本質的であり、その延長として実施形式への議論が重要であることを再確認した。そして、国内のAL実践調査(名古屋商科大学ほか)から、AL実践における失敗要因についての情報を得ることができ、構築を目指すデータベース設計と情報の入出力関連の必要情報を整理することができた。 以上の理由から、当初の計画からやや遅れてはいるものの、次年度にこれまでの研究の遅れは取り戻すことができるものと考える。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、本研究課題の最終年度となるため、授業改善方策システムの利用対象として想定している教員数名に、本システムのプロトタイプについて、形成的評価まで実施したいと考えている。これまでの遅れを取り戻すためにも、細かくマイルストーンを設定し、1カ月ごとにスケジュールの遅れが出ていないかの確認と、研究分担者との定期的(月2回程度)なミーティング(オン/オフライン)をもち、進捗管理と整理、スケジュール調整を行う。 第一四半期は、評価方法支援ツールのプロトタイプの与件をまとめ、あわせてプロトタイプ開発を外部発注の手続を進める。また本システムのデータベースに蓄積する情報収集に協力してもらえる教員との研究打ち合わせを進める。第二四半期にかけて、協力してもらえる教員が担当する、実践体験型授業の見学やステークホルダー(学生、学外の協力者など)へのインタビューを行い、プロトタイプのデータベースに情報を蓄積する。同時期に、教育関連の国内外の研究会、学会へ参加し、これまでの研究・実践の成果を発表するとともに、プロトタイプの形成的評価に協力してもらえる教員を数名確保する。そして、第二四半期末を目途に、形成的評価を実施できるプロトタイプを完成させる。その後、形成的評価を実施し、評価結果をふまえて改善を行い、本事業終了までに本研究を総括し、国内の教育実践者との情報共有や、他の教育実践者から本システムのデータベースに情報を提供してもらう仕組みを検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度の上半期に、研究代表者の体調不良及び機関の異動があったため、出張を伴う調査等ができない状況がしばらく続いたため、計画通りの予算使用ができなかった。次年度は、今年度に研究分担者が関係構築を行ったPBL/SLを実践している教員との研究打合せを定期的に行い、ステークホルダー(受講学生、外部の協力者等)へのインタビューも複数回にわたって実施する。 また本課題の遅れを取り戻すため、当初、研究代表者及び研究分担者で作成する予定だった授業改善方策システムのプロトタイプを外部発注することにし、データベースに蓄積する情報の収集と分類に注力する。
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