研究課題/領域番号 |
17K00517
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
藤原 健智 静岡大学, 創造科学技術大学院, 教授 (80209121)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 従属栄養性硝化 / POD / 窒素サイクル / 硝化 / 子嚢菌 / 細菌 / 土壌微生物 |
研究実績の概要 |
「硝化」とは、アンモニアを亜硝酸や硝酸へ異化的に変換する微生物作用のことであり、窒素サイクルにおける必須の生物学的過程である。従属栄養性の微生物による硝化反応では、独立栄養性硝化菌のものとは異なる、ピルビン酸オキシムが中間代謝産物となる反応経路が報告されている。この従属栄養硝化において中心的な役割を果たすのが、ピルビン酸オキシムをピルビン酸と亜硝酸塩に分解するという、他に類を見ない反応を触媒する「ピルビン酸オキシム酸素添加酵素(POD)」である。申請者らはこの酵素をAlcaligenes faecalisから精製し、クラスⅡアルドラーゼの相同タンパク質でありながら、炭素-炭素結合の切断や付加反応を触媒する酵素アルドラーゼとは全く異なる反応を触媒するオキシゲナーゼであることを報告している(Tsujino et al. (2017) Sci. Rep. 7:39991. doi:10.1038/srep39991)。 本研究は、POD遺伝子をマーカーとして従属栄養硝化微生物の環境生態を明らかにすることを目的として立案された計画である。初年度(H29年度)のテーマである『環境DNA中のPOD遺伝子を検出する手法の確立』のため、特に森林等の酸性土壌に豊富に存在するとされる子嚢菌類のPOD遺伝子の特異的プライマーを設計した。これを用いることで、子嚢菌POD遺伝子の森林土壌からの検出に成功した。特に、冬虫夏草の一種であるBeauveria bassiana由来のPOD遺伝子が多く得られた。次世代シークエンサーを用いたメタゲノム分析も現在進めており、森林土壌における従属栄養性硝化に対する子嚢菌類の寄与について興味深い結果が得られつつある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
POD遺伝子をターゲットとして従属栄養硝化性の子嚢菌を土壌サンプル中から検出することに成功した。また研究計画には記載していないが、別途進めているPODの結晶構造解析についても大きな進展があり、総合的にみて、当初の計画以上に進展している、とした。 初年度は子嚢菌POD遺伝子にターゲットを絞ったが、細菌のPOD遺伝子についても特異的プライマーの作製を現在試みている。PODは子嚢菌だけでなく、プロテオバクテリア門やアクチノバクテリア門に属する細菌に存在する。様々な細菌のPODを組み換え体として過剰発現させ分析した結果、これらはすべてPOD活性を示すことを確認している(東ら、学会発表)。従って細菌由来のPOD遺伝子の検出に成功すれば、次年度のテーマである『様々な環境における従属栄養硝化細菌の動態の分析』についても進展が期待できるだろう。 また創薬等先端技術支援基盤プラットフォーム(BINDS)の支援を受け、PODの構造解析を進めている。現在までに2.6Å分解能で細菌PODの結晶構造が得られており、分子構造に基づくPODの反応機構の理解が進みつつある。この研究は、例えばPOD反応を阻害することで硝化を抑制する農薬の開発に結び付くかもしれない。
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今後の研究の推進方策 |
本年度(H30年度)は、初年度に開始した上述の研究をさらに進めるとともに、最終年度のテーマとして計画した『独立栄養硝化細菌におけるPODの機能とその意義』についても予備実験をスタートさせる。POD遺伝子は、アンモニア酸化細菌などの独立栄養硝化細菌にも存在し、過剰発現させたそれらの組み換え体は、弱いながらもPOD活性を示すことが確かめられている(東ら、学会発表)。また細菌のPOD遺伝子は2~3個の機能未知遺伝子とオペロンを構成しており、何らかの機能的相関が予想される。PODの遺伝子破壊株を作成し、その表現型を分析することで、PODの生理的機能(従属栄養硝化、あるいはなんらかの代謝過程)を明らかにすることを計画している。A. faecalisの遺伝子破壊実験は報告が無いので、double-integration法による遺伝子破壊プラスミドの作製を試みている。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)計画に従って助成金を使用したが、少額の残余が生じた。
(使用計画)次年度に繰り越し、物品費の一部として使用する予定である。
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