pH・アルカリ度・塩分・溶存酸素などの主成分水質が時・空間的に大きく変動する水域では、微量元素、特に重金属元素・アクチノイド元素の濃度分布・化学 動態が激変し、特徴的な生物地球化学過程を示す。本研究では、上述の主成分水質の中で最も鋭敏な影響を持つpHに着目する。pHが極端に低いあるいは高い値に ある強酸性と強塩基性の河川・湖沼に焦点を当て、重金属元素、生元素とU、Thのアクチノイド元素の分布・濃度変動を詳しく明らかにし、これら元素の生物地球 化学過程を解明する。 3年間の研究において、強酸性、強アルカリ性あるいは溶存酸素が涸渇する水域に着目して、その酸化還元環境ならびに酸・塩基性環境の変化と金属イオン・栄養塩の生物地球化学過程の解析を試みた。溶存酸素濃度の増減による元素の酸化数の変化、pH変動による溶存化学種形態(酸解離)の変移に伴って、溶存状態が極端に変化する元素の存在が明らかになってきたからである。UやThもそのような元素に分類されると言われている。このため、強酸性水域として玖珠川水系、蔵王温泉群、強アルカリ性水域として山梨県天恵泉、神奈川県中川温泉、溶存酸素涸渇水域として三方五湖、琵琶湖南湖、河口湖、池田湖、奥津湖、等の調査を行った。これらの水域で、鉄・マンガン・ケイ素の生物地球化学過程について研究した。淡水性の溶存酸素涸渇水域では、ケイ酸重合体の存在が確認された。これはおそらく世界初の発見と考えられる。一方、同じく溶存酸素が涸渇していても汽水湖などの塩水ではケイ酸重合体は存在しなかった。塩化ナトリウムの存在が影響していると考えられた。強酸性温泉・河川では鉄濃度が極めて高かったが、ケイ酸重合体は存在しなかった。U、Thの分布の測定については、分析法の検討を継続中である。それが完成したのちに、この3年間で収集した様々な特徴を有する試水の分析・化学動態の解析を行う。
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