研究課題
溶存濃度の低い還元的な地下水においてもウラン同位体比測定を可能にするために、化学分離法を最適化し、実際の地下水試料の同位体分析を行った。昨年度の研究結果から、熊本市域の地下水において、地下水が流動中に酸化的な環境から還元的な環境に変化することで、ウランは易溶性のU(6+)から不溶性のU(4+)に還元されて溶存濃度が低下する傾向が認められた。最も還元的な地下水の例ではウラン濃度が1ppt以下と非常に低くなることが報告されており、10リットルを超える大量の地下水試料の処理が必要となる。そこで、従来から使われている鉄共沈法を用いた主要溶存イオンの除去法について、還元的で溶存炭酸濃度が高い地下水へ適用するための手法の最適化を行った。従来法では、地下水のpHを酸性にして加熱し、溶存炭酸を追い出す作業が行われているが、加熱に代えて、超音波脱気と真空脱気を組み合わせることで、大量の地下水試料についても迅速に溶存炭酸濃度を下げられ、その後の化学処理にすばやく移ることが可能になった。実際に還元的な地下水試料を用いて、鉄共沈法と陰イオン交換法により主要溶存イオンを除去したのち、得られた分析試料について234U/238U同位体比を質量分析法により測定した結果、約0.1%の繰り返し再現性が得られた。従来のアルファ線計測で得られる234U/238U同位体比の再現性は数%であるため、一桁以上精度が向上した。同位体比分析の結果、地下水の採水深度ごとに234U/238U同位体比は異なった値をもち、溶存ウラン濃度とは逆相関の傾向があった。234U/238U同位体比を新たな地下水流動解析のための同位体トレーサーとして利用できる可能性が示唆された。
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Journal of Hydrology
巻: 583 ページ: 124551
https://doi.org/10.1016/j.jhydrol.2020.124551