研究課題
海氷による熱と塩/淡水の再分配と輸送を明らかにするために、熱塩フラックスデータセットを南極海で作成した。海氷域における熱フラックスは、海氷密接度を考慮して、海面の熱フラックスと海氷表面の熱フラックスを足し合わせたものとした。塩・淡水フラックスは、海氷の結氷量や融解量から求めた。年平均の熱収支の気候値は、大陸近くで負、すなわち海洋から大気へに熱が奪われていることを示した。大きな負の値が、沿岸ポリニヤに対応する岸近くのとても狭い領域で示された。一方で、沖側では正の値が示された。年間積算の塩分収支とそれに対応する淡水収支から、大陸近くの特に沿岸ポリニヤ域で、大きな塩分排出が示された。一方、沖側の9月の氷縁付近では、淡水供給が示された。西南極や東南極の一部の海域で、大きな淡水供給が岸近くでも示された。これら年間の熱収支と塩収支から、次のことが示唆された。大陸側、すなわち高緯度側の沿岸ポリニヤ域で熱が海洋から大気に奪われ結氷し、塩分が海洋に供給される。一方で、低緯度側では海氷が融解し、淡水を供給する。この融解の際に海洋から潜熱が奪われるので、海洋が冷却される。これにより低緯度側では大気から海洋に熱が入ることが示されていると考えられる。つまりこれは、海氷による高緯度側から低緯度側への負の熱と淡水の輸送を示していると考えられる。また西南極や東南極の一部の岸近くの海域で示される淡水供給は、海洋下層や水平方向からの比較的温かい海水が移流していることを示唆している。年平均熱収支から塩収支に相当する熱(熱量に換算したもの)を引いた際、負の値は実際の融解分に足りない熱となり、これは海洋下層からの熱を示していると考えられる。特に西南極や東南極で大きな値が示された。このデータから示される海氷による熱と塩/淡水の再分配と輸送は、気候システムや、物質循環や生物活動といった様々な観点からも重要である。
すべて 2019
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Remote Sensing of Environment
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Journal of Atmospheric and Oceanic Technology
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