本研究は、日本の森林土壌の炭素吸排出量を適切に表現する科学的ツールを構築するため、生体のプロセスを組み込んだ新たな土壌炭素循環モデルの開発を行う。特に、過去数十年で生体の蓄積量が大きく増加した、人工林を主なターゲットとする。昨年度までに、土壌炭素循環モデルを構成する生体サブモデル、土壌サブモデル、およびモデル入力値の検討を行った。その結果、土壌サブモデルの違いよりも、モデルの入力値である気候帯やリターフォールの違いが、吸排出量の推定値に強く影響することを明らかにした。 今年度は、森林資源の回復過程を反映した形で、日本の森林土壌の炭素吸排出量を試算するため、土壌炭素循環モデルを日本全国に展開した。出力結果を土壌炭素インベントリの報告値と比較し、モデル出力値と観測値の違いを明らかにした。 具体的には、日本全国1kmメッシュの森林域の約1%にあたる2480メッシュについて、現在気候(1971-2000年)を反映した人工林(常緑針葉樹)1-90年生林分のリター、枯死木、土壌の炭素プールを出力した。出力結果を、土壌炭素インベントリ事業の第一期データをまとめたUgawa et al.(2012)に従い全国10ブロックに分けた。さらに林野庁が公表している都道府県別の人工林の齢級構造を反映し、リター、枯死木、土壌の炭素蓄積量の頻度分布を算出した。その結果、土壌炭素蓄積量の平均値は、Ugawa et al.(2012)で報告された値と相関はあるが、5割ほど高い傾向が見られた。このことから、モデルのスピンアップの手順に改良の余地があると考えられた。
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