研究課題/領域番号 |
17K00545
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研究機関 | 福島大学 |
研究代表者 |
高瀬 つぎ子 福島大学, 環境放射能研究所, 特任准教授 (10466641)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 放射性セシウム / 吸着状態 / 粘土鉱物 |
研究実績の概要 |
◎放射性Csの存在状態および微視的局所解析手法の開発 環境中に存在している微粒子中での放射性Csの存在形態(微視的局所構造)をモデル化するためには,解析の基礎になる土壌粒子や原子炉材料のマクロな結晶構造・化学組成を明らかにしておくことが必要である.そこで,阿武隈山地(浪江町津島地区)の土壌から,粘土鉱物微粒子(風化黒雲母粒子)の選択的に採取し,イメージングプレートを用いて放射性Csを含む粒子を単離した.これらの微粒子の化学組成を蛍光X線分析およびX線単結晶構造解析・走査型透過電子顕微鏡を用いて解析し,放射性Csを含まない標準品の黒雲母微粒子と比較した.その結果,風化黒雲母では,黒雲母の層間に存在するKイオンが減少したために層間の相互作用が弱くなり,層間距離が長くなっていることが明らかになった.このような観察結果を検証するために,Gaussian16を用いた量子化学シミュレーションを行い,SiO2クラスター(黒雲母のSiO2層をモデル化したもの)間の距離と層間の相互作用エネルギーの関係を推計した.その結果,SiO2クラスター間にK(+)やCs(+)などのアルカリ金属イオンが存在する場合,SiO2クラスター間の相互作用が大きくなり,安定化することが明らかになった.つまり,このシミュレーションの結果からも,「Kイオンが脱離した風化雲母の層間にCsイオンが取り込まれることにより,層間構造の安定化が起こる」という放射性Csの吸着モデルが支持された. ◎地表に存在する微粒子中の放射性Csの直接観察 高濃度汚染地域で採取した放射性Csを含む微粒子をイメージングプレートを用いて単離した.この微粒子(1~2Bq/個,直径 50μm程度)をXPS装置(X線のビーム径20μm)を用いて分析し,750eV付近にCsに起因するピークを検出することができた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
◎放射性Csの存在状態および微視的局所解析手法の開発 放射性Csを含む粘土鉱物のモデルとして,阿武隈山地の土壌中に多量に存在する風化黒雲母に注目し,走査型透過電子顕微鏡(STEM)による微視的構造解析の手法を用いることで,風化黒雲母の微視的構造(heterogeneousな構造)の特徴を明らかにすることができた,また,この過程で,ソフトな土壌試料をSTEM観察試料として用いる場合の重要な課題である,「試料ダメージの少ない」イオンビーム加工機(FIB)での加工条件を確立することができた.一方,モデル化された局所構造に基づいた量子化学的シミュレーションに関しては,これまで申請者が行ってきた,有機金属錯体の量子化学シミュレーションの手法を粘土鉱物に応用することで,粘土鉱物中でのCsイオンの安定構造を推計するための予備検討を行うことができた. ◎地表に存在する微粒子中の放射性Csの直接観察 高濃度汚染地域で採取した放射性Csを含む微粒子をXPS装置(X線のビーム径20μm)を用いて分析することにより,750eV付近にCsに起因するピークを直接検出することができた.また,XPS装置に装着されている電子線ビームを利用して,微粒子の電子顕微鏡(SEM)による微視的観察を試みている.なお,土壌中からの放射性Csを含む微粒子の収集に関しては,微粒子の効率をより向上させるため,放射性Csを含む微粒子の単離手法についての検討を行っている.
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今後の研究の推進方策 |
土壌中からの放射性Csを含む微粒子の収集効率をより向上させるため,放射性Csを含む微粒子の単離手法を確立するとともに,平成29年度の成果である『放射性Csを含む粒子の局所構造解析手法とCsの直接観察手法』を汚染地域から採取された土壌粒子だけでなく,放射性Csを含む不溶性の微粒子に適用し,STEMによる微視的局所構造解析(格子像/EDX,電線回折像,放射性Cs吸着サイトの直接的観察)を行い,マクロな結晶構造解析結果との比較検討を行うことにより,放射性Csを含む不溶性微粒子中でのCs吸着サイトの局所構造のモデル化を行う.また,モデル化された局所構造に基づいて,量子化学的シミュレーションを用いて,粒子内部でのCs吸着サイトの安定構造とその自由エネルギーを推計することにより,土壌粒子中での放射性Csの吸着の平衡定数を評価する.その結果を「土壌粒子上でのCsの吸着・脱離モデル」にフィードバックさせることにより,環境実態に対大生した放射性Csの吸脱着モデルを構築する.
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