造血組織に対する放射線被ばくの影響について解析がなされて来たが、これらの多くは高線量・高線量率被ばくの造血組織への影響について解析されたものであ り、低線量・低線量率被ばくの影響についての知見は未だに乏しい。本研究では、これまでの研究成果を活用し、低線量率放射線による造血システムへの障害に 対する新たな防護法の開発を試みる。これまでの解析で、申請者は低線量率(100mGy/日)でマウスに1ヶ月間照射することで、造血幹細胞を含む上位造血細胞に おいて顕著な減少が見られることを突き止めている。さらに、慢性的な低線量率被ばくが上位造血細胞において活性酸素種(ROS)を蓄積させ、これによってDNAの切断を引き起こしていることも明らかにしている。また、ROSの発生源がミトコンドリアであることを証明するために、ミトコンドリア由来のROSを解析し、低線量率放射線被ばくによるROSがミトコンドリア由来であることを明らかにした。そして、この時のミトコンドリアの膜電位が異常に上昇していることを証明した。そこで本年度は、この活性異常のミトコンドリアを脱共役剤で除去し、ゲノム修復を誘導するサイトカインを投与することで、低線量率放射線被ばくに対して防護効果があるかどうかを検証した。その結果、ミトコンドリアを除去しゲノム修復を誘導することで低線量率放射線に対する防護効果があることを見いだした。さらに、低下していた造血幹細胞活性が回復することも見出しており、低線量率放射線被ばくに対する新たな防護法の開発に着手し始めている。
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