研究課題/領域番号 |
17K00554
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
松山 睦美 (松鵜睦美) 長崎大学, 原爆後障害医療研究所, 助教 (00274639)
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研究分担者 |
中島 正洋 長崎大学, 原爆後障害医療研究所, 教授 (50284683)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | X線 / ラット / 甲状腺 / 発がん / オートファジー |
研究実績の概要 |
これまでに放射線誘発甲状腺癌のラットモデルを作成し、甲状腺放射線感受性に対する年齢影響について調べてきた。その結果若齢被曝は高齢被曝よりも甲状腺癌発症率が高く、照射後急性期でオートファジー関連分子がタンパク・遺伝子レベルで上昇した一方、発生した甲状腺癌の非腫瘍部でオートファジー関連分子の一部の発現が低下することが判明した。本研究では、放射線誘発甲状腺癌でのオートファジーの抑制の関与を明らかにすることを目的に、ラットモデルを用いたオートファジー抑制または促進系を確立し、甲状腺の急性期放射線応答や発癌にどのように影響するかを解析する。 今年度は、甲状腺の急性期放射線感受性に対するオートファジーの抑制の影響を調べた。 オートファジー阻害薬であるヒドロキシクロロキン(HCQ)200mg/kgを4週齢及び6週齢雄性ウィスターラットに照射前3日間経口投与し、4Gy照射後3時間後の甲状腺と肝臓組織を採取した。TUNEL染色を行い、細胞死数を比較した。肝臓では4週齢ラットの照射後HCQ投与群が非投与群に比べ有意に高い値を示し、6週齢では差が見られなかった。一方甲状腺では4週齢ラットでは差が見られないが、6週齢でHCQ投与群のTUNEL 陽性細胞数が非投与群に比べ高いことが分かった(9.67±2.73 vs. 24±4.93 per thyroid, n=3, p=0.0638)。6週齢ラットの甲状腺ではHCQ投与により増殖細胞マーカーのKi67陽性細胞が非投与群に比べ増加するが、放射線照射により有意に低下した(4.81±0.68% vs. 2.64±0.46%, p=0.0081)。HCQ投与後照射した群は、オートファジー関連タンパクLC3-IIとp62の発現低下が認められた。 HCQ前投与は甲状腺の放射線誘発アポトーシスを誘導し、急性期の放射線感受性を上げる作用がある可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究は、オートファジーが甲状腺の放射線照射後急性期の感受性または慢性期の発がんにどのように関与するか明らかにすることを目的にしている。今年度は薬剤によるオートファジーの抑制が甲状腺の急性期の放射線感受性に与える影響を分子病理学的に調べた。平成29年度の研究実施計画に沿って研究を実施した。4週齢、6週齢ラットにヒドロキシクロロキン(HCQ)200mg/kgを3日間経口投与し、X線4Gy全身照射後3時間の甲状腺と肝臓組織を採取し、TUNEL染色によるアポトーシスの解析、Ki67染色による増殖細胞の変化を調べた。週齢により甲状腺とポジティブコントロールである肝臓の感受性が異なり、甲状腺では4週齢では非投与群とHCQ投与群の差は見られないが、6週齢ではHCQ投与でアポトーシスが放射線により増加する結果が得られた。また、4週齢8Gy3時間後では、甲状腺のアポトーシス数が増加し、HCQ投与群との差が見られなくなった。もともと甲状腺濾胞上皮細胞は、放射線照射後アポトーシスはほとんど誘導されない。HCQ投与によるオートファジー阻害により照射後のアポトーシスが甲状腺でも誘導されれば、傷を受けた細胞が排除されその後の発がんが減少するのではないかと考えた。 しかし、今年度行った実験では差が見られる線量や投与量など条件を決めるのに時間がかかり、各タイムポイントでn=1ー3と数が十分でなくさらに匹数を増やして解析する必要がある。また、アポトーシスだけでなく、53BP1などのDNA損傷応答の解析、PCR Arrayによるオートファジー関連遺伝子の解析も今後必要である。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度の研究から、ヒドロキシクロロキンの前投与がラット甲状腺の放射線照射後急性期の感受性を上げている可能性が示唆された。当初の計画では、ヒドロキシクロロキンを長期にわたり投与して、照射後慢性期まで観察するようにしていたが、ヒドロキシクロロキン200mg/kg 3日間の投与で、体重が有意に減少し、ラットへの負担が大きいこと、長期のHCQ投与がどれ位の容量でどのような影響が出るかわからないことから、ヒドロキシクロロキン200mg/kg 経口投与3日間後4Gyをラット頸部に局所照射し、約16ヵ月の経過観察を行い発がんの発症率、甲状腺癌の分類などを調べる。薬剤投与群20匹、非投与群20匹、薬剤投与+照射群20匹、非投与+照射群20匹で発がんの影響を調べる。 また薬剤投与12匹、非投与12匹、薬剤投与+照射群12匹、非投与+照射群12匹を作成し、HCQ投与照射後、1、6、12ヵ月後の甲状腺の変化を各郡4匹ずつ組織学的に調べる。 また、前年度に引き続き、HCQ前投与による照射後急性期の甲状腺への効果を、数を増やして検討する予定である。HCQ前投与6週齢ラットに4Gy全身照射を行い3, 6, 24時間までの甲状腺と肝臓を採取する。甲状腺のアポトーシスの数、増殖細胞数、53BP1核内フォーカス数の変化、ウェスタンブロットによるLC3-II, p62の発現、PCR Arrayによるオートファジー関連遺伝子の変化を調べる予定である。各郡4匹ずつになるよう数をそろえる。
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次年度使用額が生じた理由 |
長期の甲状腺発がん実験に用いるラット代として残していたが、年度末になり最後まで使用できなかったため。次年度の動物実験に用いる予定である。
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