研究課題/領域番号 |
17K00560
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研究機関 | 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構 |
研究代表者 |
別所 光太郎 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 放射線科学センター, 准教授 (10300675)
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研究分担者 |
春日井 好己 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 J-PARCセンター, セクションリーダー (40354724)
中根 佳弘 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 J-PARCセンター, 副ディビジョン長 (00354762)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 放射線管理 / 加速器 / 化学種 |
研究実績の概要 |
大強度の粒子加速器施設/ビーム利用実験施設においては、ビームで照射される標的や窓材等に多量の放射性核種が生成され、これらの生成放射性核種を適切に取り扱うことが、施設の安全な運用上不可欠である。本研究では特に、固体内で核反応により生成された放射性核種が気相に移行する過程、気相での存在状態と挙動を明らかにすることを目指すものである。 申請者らは、世界最高強度の陽子加速器施設J-PARCのハドロン実験施設において、陽子線で照射される金標的の容器を経由して循環するヘリウム気体中の放射能監視システムの運用グループと協力して、放射線計測の立場からヘリウム気体のガンマ線スペクトルと時間変化の詳細な解析に取り組んでいる。 同施設の循環ヘリウム気体のガンマ線スペクトルでは、ビーム運転中に多数のピークが検出された。511 keVの消滅放射線、C-10, O-19, O-20, F-20, Ne-23, Ne-24, Ar-41等のガンマ線は、ビーム強度に対して単調に強度が増大する傾向を示した。この特徴は、ビーム窓や標的に生成される核種のうちで、気体状化学種を生成しやすい核種が選択的に気相に移行したものと考えられ、固体中に生成されたこれら核種の一定割合が気相に移行することを示している。一方、Hg-191m, Hg-192, Hg-193, Hg-195等のHg核種はビーム強度が一定レベルを超えた条件で検出され、これ以上のビーム強度で急激に計数率が増大する特徴が見られた。Hg核種はAuの核反応により生成され、初期的にはHg核種として金固体から気相に移行するものと考えられるが、ビーム強度と共に金の表面温度が上昇してHgの蒸気圧も上昇し、Hg化学種が気相に放出されやすくなるためであると考えれば説明可能である。定量的な解析と考察をさらに進め、気相における放射性核種の挙動の特徴をより詳細に明らかにする。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度の検討は、J-PARCハドロン実験施設の標的循環ヘリウム中で観測される放射性核種を主要な検討対象として行った。様々なビーム運転条件で観測されるヘリウム気体のガンマ線スペクトルと経時変化を解析し、ビーム強度、標的温度などと注目するガンマ線ピーク強度の関係を調査した。また、循環気体試料から放出されるガンマ線を計測する特殊な本Ge検出器システムの検出効率(エネルギー依存性)を決定し、ピーク計数率から各核種の気体中放射能濃度を決定する方法を確立した。一方、粒子輸送モンテカルロシミュレーション/誘導放射能計算コードを利用して、陽子照射により金標的とチタン合金製ビーム窓に生成される放射性核種量を求めた。以上の実測・計算結果を踏まえ、固体中の核種生成量と、気体中の核種検出濃度を定量的に比較し考察した。検討の結果、金標的に生成された様々な放射性核種のうち、C, N, O, F, Ne, Ar, Hg 等の気体状化学種を形成しやすいと考えられる核種のみが選択的に気相に移行すること、C, N, O, Ne, Ar核種では、固体に生成された核種のほぼ同一の割合が気相に移行すること、Hg核種の気相移行割合は金標的表面の温度を反映したHg蒸気圧に関係している可能性を示唆する傾向などを明らかにした。 また、J-PARC MLF 施設で核破砕中性子源として運用している水銀標的系での主要な核破砕生成核種 H-3 の挙動に関して、水素同位体科学の専門研究者と情報交換し、ステンレスに吸着された H-3 の気相への脱着挙動に関して、多くの重要な知見を得た。 さらに、海外の大型加速器施設の安全部門の研究者・技術者の情報交流会に参加し、加速器施設での放射性核種の挙動理解や施設の安全管理に関わる情報交換を行った。 以上の成果は研究計画に概ね沿ったものであり、本研究は、おおむね順調に進展しているものと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度以降の検討においても、J-PARCハドロン実験施設・陽子ビーム標的容器の循環ヘリウム気体中の放射性核種を主要な検討対象として検討を継続する。ビーム運転中に測定した膨大なガンマ線スペクトルデータ、経時変化データをさらに詳細に解析し、各種ビーム運転条件での注目放射性核種の挙動について議論する。可搬型Ge検出器を用い、ガス循環経路に設置されているフィルター(HEPA, 活性炭)のガンマ線スペクトル測定も計画しており、これにより、粒子状として気相中に存在してHEPAフィルターに捕捉される核種、活性炭に吸着捕集される核種の存在とその割合等について議論可能となると考える。また、ビーム運転中の標的やビーム窓の温度から、固体表面や気体中における放射性核種の存在形態について、化学平衡計算プログラムを利用して予測し、化学種の沸点・融点・蒸気圧等も考慮して、核種の固体-気相間移行、微粒子・エアロゾル生成などの挙動について考察する。 また、J-PARC MLF施設・水銀標的設備の維持・管理において重要な H-3 のステンレス材料内での拡散移動、気相への脱離などの過程理解に関しても検討を進める。 これらの実験評価、および計算手法を併用した解析により、加速器施設においてビーム照射に由来して生成される放射性核種の存在状態、固体中/気相中での挙動を詳細に理解することを目指す。得られた知見は、加速器トンネル内の空気、ビームライン室や標的容器内など、放射性核種の生成が考えられる各種気体中における放射性核種の挙動予測にも適用可能な情報として整理し、活用することを検討する。 さらに、得られた知見を踏まえ、大強度加速器・実験施設において起こり得る放射性物質漏えい等の異常事態を想定し、その発生と拡大の防止措置についても検討する。これらの取り組みについては、国内外の加速器施設の関係者とも情報交換、議論を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成29年度本経費での購入設備を、当初計画していた実験装置(ガスクロマトグラフ分析装置およびデータ処理装置)から、クロマトグラフ分析用データ処理装置及び水分測定装置に変更した等の理由により、当初予定額よりも使用額が減額となった。当初予定していたガスクロマトグラフ分析装置本体については別予算により購入し、データ処理装置と接続して使用可能な状態として整備が完了している。 平成30年度においては、1)これらの装置等を用いた気体試料および固体試料の化学分析、Ge検出器などを用いた放射線測定に必要な付属機器、消耗品類、2)化学平衡解析用ソフトウェアの購入、3)研究成果発表と情報収集のための学会参加、他機関との情報交換・視察等のための国内外旅費等として使用を予定している。
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備考 |
別所光太郎、北川潤一、萩原雅之、武藤亮太郎、倉崎るり、渡辺丈晃、齋藤究、春日井好己、"J-PARCハドロン実験施設の金標的監視用ガス中放射能の解析"、KEK Proceedings 2017-6 (第18回「環境放射能」研究会 Proceedings、査読あり) , 339-344 (2017)
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