研究実績の概要 |
大強度の粒子加速器施設では、ビームで照射される標的等に多量に生成される放射性核種を適切に取り扱うことが施設の安全な運用上不可欠である。本研究では、大強度陽子加速器施設J-PARCのハドロン実験施設において、金標的内で生成された放射性核種が標的容器を経由して循環するヘリウム気体に移行する過程、気体中での核種の挙動を明らかにすることを目指して検討を行っている。また、J-PARCの物質・生命科学実験施設(MLF)の液体水銀標的内に生成されるH-3の挙動についても詳細な解析を進めている。 ハドロン実験施設での検討から、ビーム運転中に循環ガス中から検出されるガンマ線放出核種は、標的やビーム窓に生成される多様な核種のうちで気体状化学種を生成しやすい元素のC,N,O,F,Ne,S,Ar,Hg等の核種が選択的に気相に移行して検出されていることを明らかにした。平成30年度は、気体中の各放射性核種の濃度を決定し、各核種の固体から気相への移行割合を定量的に評価した結果、C-10, N-16, O-14, O-19, O-20, Ne-23, Ar-41については、固体から気相へ移行する割合が同程度の値を示すことが分かった。一方、F-20, S-37, Hg-191m, Hg-192, Hg-193m, Hg-195, Hg-195m については、上記核種に比べて1/20~1/4程度の値を示し、気相に移行する割合が小さいことが分かった。これらの特徴は、核種の存在化学形態を反映したものと考えられる。 MLFでの検討においては、水銀標的容器を交換する作業時におけるH-3の気相への放出挙動に着目し、水銀容器を構成するステンレス材料へのH-3の吸蔵と気相への放出の過程をモデル化し、詳細に検討した。その結果、容器交換時に観測される気相中のH-3濃度の時間変化について、定量的に説明することが可能となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成30年度までの検討では、J-PARCのハドロン実験施設における標的容器循環ヘリウム気体中で観測される放射性核種とMLFの水銀標的中に生成されるH-3を主要な検討対象として研究活動を行った。ハドロン実験施設では、様々なビーム運転条件で観測されたヘリウム気体のガンマ線スペクトルと経時変化を詳細に解析し、ビーム強度、標的温度などと注目する核種の気相濃度の関係について検討し、その特徴を明らかにした。また、固体から気相への核種移行割合は、C, N, O, Ne, Ar 等の元素の核種では同程度の値を示すのに対し、F, S, Hg 元素の核種はやや小さな値を示すことを明らかにした。これらの気相移行割合の特徴は、気体中および固体表面における核種の存在化学形態を反映した結果と推定され、本研究ではじめて明らかになった重要な知見であると考えている。また、MLFの水銀標的内で生成されたH-3のステンレス材料内への吸蔵と固体内拡散、気相への放出などの過程についても、本研究によりはじめて定量的な解釈を試みた。 これらの研究成果は、放射性核種の化学挙動に関連する研究会等での報告に加え、水素同位体科学の専門研究者を訪問しての意見交換、核反応シミュレーション計算の専門研究会における報告などを行い、多くの有益な助言を得た。また、海外の大型加速器施設の安全関係者が集まる情報交流会に参加し、加速器施設での安全管理に関わる情報交換にも取り組んだ。 以上の成果は研究計画に概ね沿ったものであり、本研究は、おおむね順調に進展していると自己評価している。
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