研究課題
乳腺は、放射線発がんリスクの最も高い組織の一つである。一方、その発がんメカニズムに関する知見は乏しい。本研究では、申請者らがこれまでの研究で収集してきたラット乳がん検体について、次世代シークエンス技術を用いた網羅的な突然変異解析を行い、自然発症、化学発がん物質、線質の異なる放射線被ばくによって生じた乳がんにおける変異遺伝子を同定し、変異遺伝子の種類や変異パターンを比較解析することで、放射線発がんリスクを説明する分子メカニズムの解明と変異シグネチャーの探索を行うことを目的とした。今年度は、自然発症、ガンマ線、中性子線被ばく群に生じたラット乳がんで検出された遺伝子変異について、がんの原因となる候補遺伝子の抽出及び、変異パターンの比較を行った。その結果、ガンマ線、中性子線被ばく群に生じた乳がんにおいて検出された突然変異の数は、自然発症した乳がんと同程度であり、変異パターンも類似していることが分かった。さらに、DNA修復、細胞周期、転写調節関連遺伝子や、Keap1/Nrf2、Pi3k/Akt、Wntといった重要なシグナル伝達経路に機能する遺伝子に生じた変異が乳がんの原因になっていることが予測された。また、照射群に生じた乳がんに特徴的なゲノム異常として、特定のがん抑制遺伝子を含む領域においてDNAコピー数の減少が観察されることが分かった。これらの結果は、被ばくにより生じた乳がんに見られる突然変異の全体像は、自然発症した乳がんと類似している一方で、DNAコピー数の減少といった特徴を持っている可能性を示唆している。得られた成果は、放射線発がんリスクを説明する分子メカニズムの解明や予防法の開発に有用である。また、照射群に生じた乳がんに特徴的なゲノム異常は、放射線で誘発されたがんの分子指標として発がんリスクの推定に役立つと考えられるため、今後解析を進める必要がある。
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