電離放射線により誘発されるDNA鎖切断の生成に係る水和水分子の役割の解明

2017 年度 実施状況報告書

• 研究課題/領域番号: 17K00564
• 研究機関: 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構
• 研究代表者: 藤井 健太郎 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 高崎量子応用研究所 東海量子ビーム応用研究センター, 上席研究員(定常) (00360404)
• 研究期間 (年度): 2017-04-01 – 2020-03-31
• キーワード: DNA主鎖切断 / デオキシリボース / 脱離イオン

研究実績の概要

DNA主鎖骨格を形成するデオキシリボース(H-dR:C5H10O4)分子の薄膜に酸素K殻イオン化エネルギーを超えた560eVの軟X線を照射することによって、酸素原子を一つ含む５員環（フラノース環）中の少なくとも２つのC-CまたはC-O結合に切断が起こり、様々なフラグメントイオンが試料表面から脱離することが明らかになっている。ごく最近、dR分子内の酸素をイオン化した場合に生成する分子フラグメンテーションの結果、試料表面から脱離した正イオンの生成が、H-dR薄膜試料表面上に吸着した僅か1分子層の水によって、顕著に抑えられることが明らかになった。一方で、水和水分子の酸素の内殻電子をイオン化した場合は、水分子から周りの他の水分子、あるいはH-dR分子にプロトンが移動することを示唆する結果も得ている。このような水和水とH-dR分子との間で起こる、プロトン移動の相対的な頻度を明らかにするため、H-dR分子内のOH基の水素を重水素置換した部分重水素化dR（D3-dR）の薄膜を作成し、水和水を吸着させた場合に脱離するイオンの質量が、H-dR分子の場合と比較してどのように変化するかを観測した。
その結果、D3-dRでは、D+イオンの脱離は観測されないものの、H-dRにおいて観測された脱離イオンに加えて、質量数１９のイオンの脱離が観測された。このイオンはHDO+あるいはH3O+イオンと同定されるが、H-dRの脱離において、H2O+イオンの顕著な増加がみられていないことから、これらの脱離種は、dR分子から水和水分子に向けてD+イオンが移動し、その後の分子間の緩和後に生成したと推察した。また、水和水として重水を吸着させる実験の準備のため、試料薄膜近傍に局所的な低真空雰囲気を再現するための試料噴霧機構の準備を行った。

現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

デオキシリボース分子内の一部の水素を重水素化した試料についての実験はおおむね順調に進んでいる。
また、水和水として重水素を吸着させるための装置の準備も年度内に終了した。現在、装置の評価を行うと共に予備的な実験を行っており、平成30年度に行う実験の目途はついている。

今後の研究の推進方策

得られた成果は、5月にフランスで開催される、放射線DNA損傷に係る国際会議、および6月に台湾で開催される放射光科学に関わる国際会議において発表を行う。
今後は吸着分子として重水素を用いた実験を行い、水素移動過程についての詳細を明らかにする予定である。さらに、重水素化試料を用いた量子化学計算をピエールマリーキュリー大のPenhoat博士の協力のもと行う予定である。

次年度使用額が生じた理由

平成29年度内に予定した論文投稿費用の支払いが、出版社の都合により平成30年度になってしまったため、次年度使用額が生じた。
平成30年度における投稿費用の支払いについては、直ちに手続きを行っているところである。

研究成果

• [雑誌論文] Roles of Hydration for Inducing Decomposition of 2-deoxy-D-ribose by Ionization of Oxygen K-Shell Electrons (2018)
  • 著者名/発表者名: Kentaro Fujii, Yudai Izumi, Ayumi Narita, Krishina Ghose, Pable Lopez-Tarifa, Alain Touati, Riccardo Spezia, Rodolphe Vuilleumier, Marie-Pierre Gaigeot, Marie-Francoise Politis, Marie-Anne Herve du Penhoat, Akinari Yokoya
  • 雑誌名: Radiation Research 巻: 189 ページ: 264-272
  • DOI: 10.1667/RR14225.1
  • 査読あり
• [雑誌論文] A significant role of non-thermal equilibrated electrons in the formation of deleterious complex DNA damage (2018)
  • 著者名/発表者名: Takeshi Kai, Akinari Yokoya, Masatoshi Ukai, Kentaro Fujii, Tomohiro Toigawa, Rituko Watanabe
  • 雑誌名: Physical Chemistry Chemical Physics 巻: 92 ページ: 660-664
  • DOI: 10.1039/C7CP06903K
  • 査読あり / 国際共著
• [雑誌論文] Circular dichroism spectroscopic study on structural alterations of histones induced by post-translational modifications in DNA damage responses: Lysine-9 methylation of H3 (2017)
  • 著者名/発表者名: Yudai Izumi, Koichi Mastuo, Kentaro Fujii, Akinari Yokoya, Masaki Taniguchi, Hirofumi Namatame
  • 雑誌名: Journal of Radiation Research 巻: 59 ページ: 108-115
  • DOI: 10.1093/jrr/rrx068
  • 査読あり / オープンアクセス
• [学会発表] 電離放射線によって生じるDNA鎖切断 に対する水和水分子の役割 (2018)
  • 著者名/発表者名: 藤井 健太郎, 横谷 明徳, M-A Herve du Penhoat, M-F Politis
  • 学会等名: 第31回日本放射光学会年会・放射光科学合同シンポジウム
  • 国際学会
• [学会発表] 放射光円二色性分光によるメチル化ヒストンH3の構造解析 (2018)
  • 著者名/発表者名: 泉 雄大, 松尾 光一, 藤井 健太郎, 横谷 明徳
  • 学会等名: 第31回日本放射光学会年会・放射光科学合同シンポジウム
  • 国際学会
• [学会発表] VUV-CDスペクトル測定による DNA修復タンパク質 XRCC4の二次構造解析 (2018)
  • 著者名/発表者名: 西久保 開, 泉 雄大, 藤井 健太郎, 松尾 光一, 松本 義久, 横谷 明徳
  • 学会等名: 第31回日本放射光学会年会・放射光科学合同シンポジウム
  • 国際学会
• [学会発表] Secondary structural analysis of XRCC4 protein using HiSOR-VUVCD (2018)
  • 著者名/発表者名: Kai Nishikubo, Yudai Izumi, Kentaro Fujii, K.Matsuo, Y.Yamamoto, Akinari Yokoya
  • 学会等名: The 22nd Hiroshima International Symposium on Synchrotron Radiation
  • 国際学会
• [学会発表] Radiation Damage to DNA Induced by K-shell Electron Ionizations (2018)
  • 著者名/発表者名: 藤井 健太郎
  • 学会等名: HiSORセミナー
  • 招待講演
• [学会発表] 円二色性スペクトル法によるDNA2本鎖切断修復関連 タンパク質（XRCC4）の二次構造解析 (2017)
  • 著者名/発表者名: 西久保 開, 泉 雄大, 藤井 健太郎, 松本 義久, 横谷 明徳
  • 学会等名: 科学技術創成研究院 先導原子力研究所 研究交流・発表会
• [学会発表] Structural Analysis of DNA Repair Protein (XRCC4) by Applying Circular Dichroism at Synchrotron VUV Beamline (2017)
  • 著者名/発表者名: Kai Nishikubo, Yudai Izumi, Kentaro Fujii, Yoshihisa Matsumoto, Akinari Yokoya
  • 学会等名: 第１回国際シンポジウム 「量子生命科学 -Quantum Life Science-」
  • 国際学会
• [学会発表] シンクロトロン放射を用いたCDスペクトル測定によるDNA修復タンパク質XRCC4の構造解析 (2017)
  • 著者名/発表者名: 西久保 開, 泉 雄大, 藤井 健太郎, 松本 義久, 横谷 明徳
  • 学会等名: 平成29年度KUR専門研究会
• [学会発表] Ultrafast Proton Transfer between DNA-Sugar Molecule and Hydrated Water induced by K-Ionization of Oxygen (2017)
  • 著者名/発表者名: 藤井 健太郎, Marie-Francois Politis, Marie-Anne Herve du Penhoat, 横谷 明徳
  • 学会等名: 第１回国際シンポジウム 「量子生命科学 -Quantum Life Science-」
  • 国際学会
• [学会発表] シンクロトロン放射を用いたCD スペクトル測定によるDNA 修復タンパク質XRCC4 の溶液中での構造解析 (2017)
  • 著者名/発表者名: 西久保 開, 泉 雄大, 藤井 健太郎, 松本 義久, 横谷 明徳
  • 学会等名: 日本放射線影響学会
• [学会発表] STRUCTURAL ANALYSIS OF DNA REPAIR PROTEIN (XRCC4) APPLYING CIRCULAR DICHROISM IN AN AQUEOUS SOLUTION (2017)
  • 著者名/発表者名: 西久保 開, 泉 雄大, 藤井 健太郎, 松本 義久, 横谷 明徳
  • 学会等名: MICROS 2017 - 17th International Symposium on Microdosimetry 参加
  • 国際学会
• [学会発表] DNA構成元素の内殻励起によって誘発されるDNA損傷の定量実験 (2017)
  • 著者名/発表者名: 鯉渕 誠也, 藤井 健太郎, 横谷 明徳
  • 学会等名: 平成29年度KUR専門研究会
• [学会発表] Quantum Life Sciences in QST (2017)
  • 著者名/発表者名: Akinari Yokoya, Tatsuhiko Imaoka, Takeshi Ohshima, Shinobu Onoda, Kenji Owada, Kentaro Fujii, Koichi Yamakawa, Motoyasu Adachi, Hironori Oba, Makiko Yamada, Hidetoshi Kono, Hiroshi Murakami, Noriyuki Ouchi, Yoshiteru Yonetani, Ryuji Igarashi, Yudai Izumi, Shigenori Tanaka, Mutshuko Hatano, Shigeki Takeuhi
  • 学会等名: 第1回QST国際シンポジウム「量子生命科学 -Quantum Life Science-」
  • 国際学会
• [学会発表] Fragmentation of Doubly-Ionized Deoxyribose. (2017)
  • 著者名/発表者名: Marie-Annne Herve du Penhoat, Alexandre souchaudl, Rodolphe Vuilleumier, Marie-Piene Gaigeot, Kentaro Fujii, Akinari Yokoya, Marie-Francoise politis
  • 学会等名: 第1回QST国際シンポジウム「量子生命科学 -Quantum Life Science-」
  • 国際学会
• [学会発表] Synchrotron Radiation as a Quantum Tool for Studies of Radiation Damage to DNA and Resulting Cellular Responses (2017)
  • 著者名/発表者名: 横谷 明徳, 藤井 健太郎, 島田 紘行, 鵜飼 正敏, 神長 輝一, Kenji Owada, 町田 晃彦, 西村 由希子, 今岡 達彦
  • 学会等名: Conbio2017(生命科学系学会合同年次大会)