研究課題/領域番号 |
17K00564
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研究機関 | 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構 |
研究代表者 |
藤井 健太郎 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 次世代放射光施設整備開発センター, 上席研究員(定常) (00360404)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 水和 / デオキシリボース / 中性種の脱離 |
研究実績の概要 |
ごく最近Herve du Penhoatらは、DFT-MDシミュレーションの結果から、水和したデオキシリボース(dR)分子に対して酸素K殻イオン化を行った場合、五員環内の酸素原子が中性の状態で脱離する可能性を見出した(Herve du Penhoat et. al., Quantum Beam Science, 3 (2019) 24)。2019年度は、上記の中性脱離が観測されるかどうかを検証するため、酸素K殻イオン化を行うことのできる560 eVの軟X線を水和したデオキシリボースの表面に照射し、照射中に試料から脱離する中性種を残留ガス質量分析器(RGA100(SRS社製))により検出した。軟X線照射中は測定チャンバーの真空度の悪化が見られ、残留ガスとして何らかの脱離種が観測されることが期待されたが、乾燥dR膜と水和dR膜とで脱離種の質量スペクトルを比較した結果、顕著な違いは見られなかった。この原因として、1)水和による脱離種の変化が測定限界以下であること。2)真空計では何らかの脱離種は観測されるものの、質量分析器の検出器に到達するほど寿命が長くはない。今回、中性脱離種としては検出できなかったものの、これまでの実験において軟X線吸収スペクトル[K. Fujii and A. Yokoya, AIP Conf. Proc. 2054 (2019) 040005. ]や脱離イオン種[K. Fujii, et al., Rad. Res. 189 (2018) 264-279.]の違いは見られていることから、引き続き中性脱離種の観測を進める予定である。その際、試料表面からの脱離種は表面正清浄性に極めて敏感なことから、試料表面のクリーニングについても細心の注意を払い実験を行う予定である。2020年度は2019年度の出張経費の削減にょり繰り越しが可能になったため、脱離実験の最適化や軟X線吸収スペクトルの測定などからDFT-MDシミュレーションによって予想された結果の検証を行う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2019年度4月より所内の配置換えにより、本務遂行地が播磨地区SPring8に変更になり、放射光実験を行うための実験に要する出張の必要がなくなった。そのため、出張経費を大幅に削減することができた。DFT-MDシミュレーションが先行して脱離種の予想を行うことができたことは本課題にとっても大きな進展であり、2019年度は中性脱離の実験にめどが立ったが、水和試料からの中性脱離種の生成を検出するには至らなかった。2020年度に繰り越した資金を活用して、上記の実験を引き続き行う予定である。
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今後の研究の推進方策 |
今回、中性脱離種としては検出できなかったものの、これまでの実験において軟X線吸収スペクトル[K. Fujii and A. Yokoya, AIP Conf. Proc. 2054 (2019) 040005. ]や脱離イオン種[K. Fujii, et al., Rad. Res. 189 (2018) 264-279.]の違いは見られていることから、引き続き中性脱離種の観測を進める予定である。その際、試料表面からの脱離種は表面正清浄性に極めて敏感なことから、試料表面のクリーニングについても細心の注意を払い実験を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
機構内の配置換えに伴い主たる拠点が播磨放射光施設になったため、当初予定していた出張を行う必要がなくなった。そのため出張費が大幅に削減することができたため、次年度に繰り越しを行い、当初予定していた実験の再現性やより精度の高い実験データを得るための試薬や解析機器等に充てる。
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