研究課題
神経毒としてメチル水銀を用いた場合,ICRマウスではメスのほうが脆弱である。この性差の解明を目指して研究を行った。同時に,低用量のメチル水銀投与で観察された脳室の拡大という新たな神経毒性指標の分子機構の追及も,合わせて行った。昨年度は,ICRマウスにメチル水銀を投与した場合に,協調運動障害が現れる半分以下の投与量で中脳水道の狭窄が生じること,水道周囲灰白質(PAG)特異的にアクアポリン4の発現量が増加するという新規の知見が得られた。今年度は,まずメチル水銀投与マウスで脳部位別に水分含量を測定したところ,PAGで特異的に浮腫が生じていることを明らかにした。PAGで浮腫が生じることで中脳水道が狭窄し,脳室が拡大したと推定できる。さらにその分子機構として,比較的低用量のメチル水銀投与でPAG特異的に酸化ストレスが誘導され,アストロサイトが活性化し,アストロサイトでのアクアポリン4の発現が亢進される事を明らかにした。アクアポリン4は浮腫を引き起こすタンパク質であり,アストロサイトの活性化で発現が亢進される。また,アストロサイトは酸化ストレスによって活性化されるとの報告がある。よって,昨年度の研究成果と合わせて,脳室拡大の分子機構の少なくとも一部は,メチル水銀投与 ―> PAG特異的な酸化ストレスの亢進 ―> アストロサイトの活性化―> アクアポリン4の発現上昇 ―> PAGでの浮腫の生成 ―> 中脳水道の狭窄 ―> 脳せき髄液の滞留による脳室の拡大であることが,推定された。
2: おおむね順調に進展している
この研究は,メチル水銀による脳室の拡大という形態変化の観察から始まったが,平成29, 30年度の研究により,その分子メカニズムがかなり明らかになった。すなわち,低用量のメチル水銀投与により,水道周囲灰白質という脳内の特異的部位において酸化ストレスが亢進し,アストロサイトが活性化され,そしてアストロサイトでのアクアポリンの発現量が増加して浮腫が発生するというメカニズムである。水道周囲灰白質での浮腫は中脳水道を圧迫するのでそこが狭窄し,その結果脳室が拡大してMRIで検出が可能になったと推定することには矛盾点はない。分子メカニズムの一部が明らかになったことから,次年度の性差の研究で何をどのように測定すればよいかが明確になり,本研究の目的達成にむけ,大きく前進した。
現在までに,ICRマウスのオスを用いた低用量のメチル水銀毒性メカニズムに関する研究成果が得られている。最終年度は,メスマウスにメチル水銀を投与してオスとの比較を行い,性差のメカニズム解明に迫る。オスと同じ投与条件でメスにメチル水銀を投与し,酸化ストレス酵素のmRNA,アストロサイト活性化マーカーのmRNA,アクアポリン4のmRNA をリアルタイムPCRで測定することにより,高精度でオスとの比較が可能である。そして,オスおよびメスの脳内,特に水道周囲灰白質での性ステロイドホルモン濃度を定量し,それとの相関を解析する。さらに,脳内性ステロイド濃度を変動させて同様の測定を行い,神経毒性の性差と性ステロイドホルモンとの関係を明らかにする。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 2件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (2件)
Biochem. Biophys. Res. Commun
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Communications Biology
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