研究課題
メチル水銀毒性には性差がある。ICRマウスでは,協調運動障害や体重減少といった典型的な中毒症状は,メスの方が低い投与量で現れる。この性差の解明を目指し,低用量でのメチル水銀毒性のメカニズムを追求した。亜急性毒性が生じる投与量でメチル水銀をICRマウスに連日経口投与すると,典型的な中毒症状が現れる半分程度の量の投与によって,脳室が拡大した。本研究では2018年度までに,(1)脳室が拡大する量を投与したマウスの脳切片において,中脳水道の狭窄が見られ,中脳水道周囲灰白質の水分含量が増加していた。よって浮腫によって中脳水道が狭窄し,脳室が拡大したと推定した。さらに,(2) 中脳水道周囲灰白質特異的に,浮腫と関連するアクアポリン4のタンパク質量とmRNA量が増加し,アクアポリン4が発現するアストロサイトの活性化マーカーであるGFAP, S100βも増加することを明らかにした。2019年度は,脳室が拡大する量のメチル水銀投与により,マウスの中脳水道周囲灰白質で,(3) GFAPとアクアポリン4が毛細血管周囲で共発現していること,(4)酸化ストレスマーカーであるTBARSと酸化型グルタチオン量,抗酸化酵素類のmRNA量が増加していること,(5)中脳水道周囲灰白質の水銀量は,大脳皮質、小脳とほぼ同じであること,(6) 典型時中毒症状が現れる量のメチル水銀の投与によって,大脳皮質や小脳でもアクアポリン4やGFAPの発現が亢進する事を明らかにした。以上より,ICRマウスでは中脳水道周囲灰白質が特異的にメチル水銀感受性が高く,低用量のメチル水銀によって酸化ストレスが亢進し,アストロサイトの活性化とアクアポリン4の発現増加が見られることを明らかにした,この新規毒性が,浮腫による中脳水道の狭窄と脳室拡大の原因である可能性がある。この毒性の性差について,今後さらに追求していく。
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