研究課題/領域番号 |
17K00571
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研究機関 | 東京女子医科大学 |
研究代表者 |
蒋池 勇太 東京女子医科大学, 医学部, 講師 (70386556)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | アクリルアミド / ゼブラフィッシュ / 小胞体ストレス / 脾毒性 |
研究実績の概要 |
アクリルアミドは、工業材料や環境保全用素材として広く用いられている一方で、近年、食を介して曝露されうる身近な有害物質として注目されている。これまでに我々は、高濃度アクリルアミド曝露の影響についてゼブラフィッシュを用いて検討し、小胞体ストレスにより神経毒性が生じることを初めて明らかにしてきた。本研究は、従来の我々の成果をさらに発展させ、食を介して実際に起こりうる低濃度アクリルアミドの慢性曝露の影響を明らかにすることを目的に、①小胞体ストレス応答を介した神経毒性が発現するか?②DOHaDによりどのような継世代影響を及ぼすか?に着目して本研究を計画した。 上記①については、ゼブラフィッシュの餌であるブラインシュリンプにアクリルアミドを取り込ませ、それをゼブラフィッシュ成魚に給餌するという、食事による曝露を忠実に再現した方法を用い、1か月間の曝露を独立に3回行った。そこから得た試料を用いて、中枢神経系器官である脳、網膜における小胞体ストレス応答関連およびその他の細胞ストレス応答関連遺伝子の発現変化を、リアルタイムPCR法により検討している。また、それらの器官の組織変異について検討中である。加えて、神経系の解析と並行して、劇的な形態変化が生じていた脾臓について、遺伝子発現解析、各種組織染色、免疫組織化学法を用いて検討し、脾嚢胞形成、出血、炎症および感染への脆弱性の増加などを見出し、アクリルアミドの摂食により脾毒性が引き起こされることを明らかにした。この結果は英文原著論文として纏め、現在論文投稿中である。 上記②については、昨年度の状況報告書にて報告した通り、本研究計画の曝露方法では、食品中に含まれる濃度下でのDOHaDによる影響が観察されないため一旦終了、と結論付けており、本年度に得た成果はない。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、次年度に所属大学の校舎が移転することにより膨大な移転関連業務を負った上に、それに伴い、施設や機器の使用に大きな制限が生じ、研究遂行に全体的な困難が生じたものの、本計画はおおむね順調に進んだと考えている。 まず、①低濃度アクリルアミドの慢性曝露により小胞体ストレス応答を介した神経毒性が発現するか?については、中枢神経系器官における小胞体ストレス応答関連遺伝子の発現変化をリアルタイムPCR法により検討し終えている。加えて、酸化ストレス応答など他の細胞ストレス応答関連遺伝子についても解析が進んでいる。それらの器官の組織変異についての検討が終了していないため、論文執筆に至っておらず、本年度内にこの内容での英文原著論文を発表するという目標は達せられていない。しかし、上述の通り、中枢神経系以外で顕著な影響を受ける脾臓についての解析を行い、論文投稿に至ったことから、本研究は大きく発展したといえる。 ②低濃度アクリルアミドの慢性曝露下でDOHaDによりどのような継世代影響を及ぼすか?については、前述の通り一旦終了した。しかし、本研究は継世代影響の有無を含めて検討することを目的としているので、あくまで今回の条件下ではあるが、影響は見られないという結論を研究期間内に得たことは、目標を達成したといえる。
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今後の研究の推進方策 |
①低濃度アクリルアミド慢性曝露により、小胞体ストレス応答を介した神経毒性が発現するか?について、本年度に引き続き、中枢神経系器官である脳、網膜における組織の変異について、各種染色法を用いた組織化学的な検討を進める。また、アクリルアミドの毒性発現に酸化ストレスが極めて重大な役割をしており、酸化ストレス応答がアクリルアミドの毒性に対して保護的に働いているという知見を、我々が本研究と並行して行った研究より得ていることから、小胞体ストレス応答に加え、酸化ストレス応答およびほかの細胞ストレス応答関連遺伝子についても発現解析を中心に検討していく。また、脾臓では炎症反応をはじめとしたいくつかの生体影響がみられていることから、それらのうちで中枢神経系でも検討可能なものについて検討を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度に所属大学の校舎が移転することにより、膨大な移転関連業務を負った上に、施設や機器の使用に大きな制限が生じ、研究遂行に困難が生じたため、物品の購入が少なかった。また、本年度に予定していた国際学会への参加を、配偶者の健康不良により次年度に先送りした。さらに研究期間内に予定していた2報目の論文がいまだ投稿中であり、諸費用の発生が次年度になるため、次年度使用額が生じた。 次年度では、上述の2報目の論文に加え、更にもう1報報告可能なシーズを得ているので、そのための実験を行うのに必要な試薬、消耗品の購入と、論文発表にかかる諸経費に使用する。現在とこれからのコロナウイルスパンデミックの状況を鑑み、海外学会出張は難しいと判断しており、旅費としての高額な支出はないと考えている。
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